耐熱性、薬品耐性、そしてクリアな視界。
これらすべてを高いレベルで兼ね備えたのが、特殊ガラス「テンパックスガラス(TEMPAX Float®)」です。
建築から実験器具、最先端の照明カバーまで、幅広い用途でその真価を発揮するこの素材は、まさに「見えない安心」を提供するガラスです。
目次
テンパックスガラスとは?
テンパックスガラスは、一般的なガラスの常識を覆すほどの優れた耐熱性と透明度を誇る、特殊なホウケイ酸ガラスです。
ドイツの老舗ガラスメーカー、ショット社が生み出したこの素材は、その低い熱膨張率のおかげで、高温下でも歪みや破損のリスクを大幅に低減します。
常用使用で450℃、最高で500℃という耐熱温度は、まさに炎の傍でも冷静さを保つ強さ。
さらに、特筆すべきはその光透過性です。一般的なガラスに見られるわずかな緑がかった色味はほとんどなく、限りなく無色透明に近いクリアな視界を実現します。
このため、光学機器のレンズや高輝度照明の保護カバーなど、精密な視認性が求められる場面でその真価を発揮します。

テンパックスガラスの特性
テンパックスガラスは、多岐にわたる分野でその存在感を放ちます。
高い耐熱性
テンパックスガラスの最大の強みは、その群を抜いた耐熱性です。
450℃の常用使用温度、そして瞬間的なら500℃にまで耐える能力は、熱い厨房の窓やオーブンの扉、はたまたボイラーの覗き窓といった、高温に晒される環境で絶大な信頼を得ています。
万が一、加熱中に水がかかるような状況でも、通常のガラスに比べてはるかに安全性が高く、まさに「火を扱う現場の守護神」と言えるでしょう。
優れた薬品耐性
酸やアルカリ、さまざまな溶剤に対して高い耐久性を示すのも、テンパックスガラスの大きな特徴です。
化学的に安定したこの素材は、実験室のビーカーやフラスコ、化学プラントの覗き窓、さらには医療機器の一部としても広く採用されています。
一般的なガラスが変色や曇りといった劣化を起こしやすい中、テンパックスガラスはその美しさを長期間維持できるため、清潔感や正確性が求められる環境で重宝されます。
ただし、フッ化水素酸などの一部の特殊な薬品には反応する可能性もあるため、使用環境に応じた確認は不可欠です。
透過率
テンパックスガラスは、非常に高い透明度を誇ります。
通常のガラスが持つかすかな緑色がなく、極めてクリアなため、ガラス越しでも対象の色や形を鮮明に認識できます。
この特性は、光学機器のレンズや照明器具の保護カバー、カメラのレンズ保護など、光の質や視認性が重要視される場面で大きなアドバンテージとなります。
光学的な歪みが非常に少なく、光を均一に透過させるため、プロジェクターや高輝度スポットライトのカバーとしても理想的な素材です。
さらに、紫外線の透過率を調整しやすい特性から、特定の波長を遮断するフィルターや分析装置への応用も期待されています。

パイレックスとの関連性
実は、テンパックスガラスはアメリカのコーニング社が製造する「パイレックス」とほぼ同等の性能を持つことでも知られています。
パイレックスはキッチン用品などで広く普及しており、私たちの身近な製品にも多用されています。
テンパックスガラスも同様に、自動車のヘッドライトカバーや実験器具など、意外な場所でその高い性能を発揮しています。
石英ガラスとの違いは?
テンパックスガラスと石英ガラスは、どちらも優れた耐熱性と透過性を持つ特殊ガラスですが、その特性には明確な違いがあります。
特徴 | テンパックスガラス | 石英ガラス |
耐熱温度 | 最高500℃ | 最高1000℃以上 |
透過率 | 高い(無色透明に近い) | 極めて高い(紫外線透過率も優れる) |
価格 | 比較的リーズナブル | 高価 |
強化加工 | 可能 | 不可 |
主用途 | 照明カバー、実験器具、覗き窓、キッチンなど | 光学機器、半導体製造装置など、超高温環境 |
最も大きな違いは耐熱温度です。
超高温環境での使用を想定するならば、1000℃を超える温度に耐えうる石英ガラスが適しています。
しかし、透過率においてはどちらも非常に優れており、特定の波長透過が求められる場合を除けば、テンパックスガラスでも十分にクリアな視界を確保できます。
また、価格面ではテンパックスガラスが石英ガラスよりも経済的であり、さらに強化加工が可能である点も大きな利点です。
高圧がかかる環境や衝撃に対する安全性を重視する場合は、強化テンパックスガラスが優れた選択肢となります。
このように、それぞれの特性を理解し、使用環境に最適なガラスを選ぶことが重要です。
テンパパックスガラスに施せる加工
テンパックスガラスは、その優れた基本性能に加え、さまざまな加工を施すことで、より幅広い用途に対応し、安全性や利便性を高めることができます。
- カット・切断面処理
用途に応じて、自由なサイズや形状にカットすることが可能です。
また、切断面処理により小口を滑らかに仕上げることで、怪我のリスクを低減します。 - 強化加工
テンパックスガラスに強化加工を施すことで、通常のガラスの3.5~4倍もの耐衝撃性を実現できます。
これにより、万が一の衝撃にも強く、割れにくい安全性の高いガラスとして利用できます。
また、強化ガラスは破損した場合に破片が鋭利な形状ではなく、粒状になるため、怪我のリスクを大幅に軽減できるという利点もあります。 - 飛散防止フィルムの貼り付け
ガラスが破損した際に破片が飛び散るのを防ぐためのフィルム加工です。
特に、照明カバーや医療機器の覗き窓など、安全性が最優先される場所への設置を検討している場合に有効です。
透明なフィルムであるため、テンパックスガラス本来の高い光透過性を損なうことなく安全性を向上させられます。
テンパックスガラスが活躍する場面
テンパックスガラスは、その耐熱性、薬品耐性、高透過性といった特性を活かし、実に多様な分野で私たちの生活を支えています。
- 飲食店の焼き場
テンパックスガラスは500℃もの耐熱性があり、急激な温度変化にも強いため、長期間にわたって安全に使用できます。調理の様子をお客様に見せることで、エンターテイメント性や安心感を高める演出効果も期待できます。 - ボイラー・圧力容器の覗き窓
高温・高圧環境下で稼働するボイラーや圧力容器では、内部の状況を安全に確認するための覗き窓が不可欠です。
熱膨張率が低く、温度変化に強いテンパックスガラスは、これらの過酷な環境下での使用に最適です。
さらに強化加工を施すことで、耐衝撃性が向上し、万が一の破損時も粒状に割れるため安全性が高まります。
産業設備や化学プラントにおいて、安定した視認性を確保するための重要な役割を担っています。 - 照明器具の保護ガラス
ハロゲンランプや投光器といった高温を発する照明器具では、その熱に耐えうる保護ガラスが必要です。
テンパックスガラスは、熱による変形や破損のリスクが低く、安全な使用を可能にします。
また、光学的歪みがほとんどないため、光の透過率を損なうことなく、クリアな照明環境を提供できます。
スポットライトやプロジェクターのカバーとして利用すれば、長時間の使用でも安定した性能を維持し、美しい光を届け続けます。 - 実験器具や医療器具
化学実験や医療の現場では、高い薬品耐性と透明性が不可欠です。
酸やアルカリに強いテンパックスガラスは、試験管、ビーカー、フラスコなどの実験器具として広く用いられています。
透過率の高さは顕微鏡のスライドガラスや滴定用プレート、DNA分析や培養プレートといった精密な観察が求められる場面でその真価を発揮します。
医療分野では、診断機器のカバーガラスやレーザー治療器具の保護ガラスとしても採用され、その光学特性と耐久性が高く評価されています。

テンパックスガラスを扱う上での注意点
テンパックスガラスは高い耐熱性を誇りますが、極端な急激な温度変化には注意が必要です。
熱い状態のガラスに冷水をかけたり、極低温下から急に高温に晒したりすると、ガラス内部に大きな温度差が生じ、これが「熱衝撃破損」と呼ばれる割れの原因となります。
特に、耐熱衝撃温度を超える環境では一瞬でひびが入ってしまうこともあります。
使用する際は、温度の急激な変化を避け、段階的に加熱・冷却を行う、あるいは直接水がかからないような設計にするなど、適切な温度管理が重要です。
お問い合わせ
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お客様のニーズに寄り添い、最適なご提案をいたします。
【TEMPAX Float®】
https://www.schott.com/ja-jp/products/borofloat-p1000314
