強度を高めたガラスの種類に「倍強度ガラス」があります。
一般的なフロートガラスや、衝撃に強い強化ガラスと比較されますが、その使い分けには明確な理由があります。
倍強度ガラスは、単に「割れにくい」というだけでなく、建物の安全性やメンテナンス性を高めるための「特別な性質」を備えたガラスです。
JIS規格の定義を確認しつつ、他のガラスとどのような違いがあるのかを解説します。
目次
倍強度ガラスとは?
倍強度ガラスは、フロートガラスを加熱・冷却することで、表面の強度を高めた熱処理ガラスの一種です。
製造工程は強化ガラスと非常によく似ていますが、冷却の仕方を精密にコントロールしている点が大きな違いです。
- 加熱: ガラスを軟化温度(約650℃)近くまで均一に温めます。
- 冷却: 強化ガラスよりも、少しゆっくりと空気を吹き付けて冷やします。
この「ゆっくり冷やす」工程により、表面にほどよい「圧縮応力層」を作り出します。
倍強度ガラスの表面圧縮応力はJIS R 3222で「20〜60MN/㎡」と規定されており、これが割れた時の挙動をコントロールするための鍵となります。
なぜ、あえて「ほどほど」に冷やすのか
強化ガラスのように一気に冷やして強度を最大化せず、あえてこの数値に抑えているのは、「強さ」と「割れた後の挙動」のバランスをコントロールするためです。
表面の力を適切に抑えることで、フロートガラスの約2倍という「割れにくさ」を確保しながら、万が一破損した際には「大きく割れる(フロートガラスと同等)」という性質を維持させています。
これにより、単に強いガラスを求めるだけでなく、「もし割れたとしても、破片を枠に留めて脱落を防ぎたい(高層ビルの外装など)」といった、用途や場所に応じたきめ細やかな安全設計の選択肢を持てることが、倍強度ガラスの大きな役割となっています。
ガラスの種類による性能の比較
それぞれのガラスが持つ特徴をまとめると、以下のようになります。
| 比較項目 | フロートガラス | 倍強度ガラス | 強化ガラス |
|---|---|---|---|
| 強度の目安(耐風圧) | 1倍(基準) | 約2倍 | 約3〜5倍 |
| 破損時の割れ方 | 大きく割れる | フロートガラスと同様 | 小さな粒状(粉々になる) |
| 自爆(自然破損) | なし | ほぼなし | 稀に発生することがある |
| 耐熱衝撃性能 | 基準 | 約2〜3倍 | 約3〜4倍以上 |
- 倍強度ガラスは、破損時にフロート板ガラスに近い割れ方となるため、強化ガラスのような「人体への怪我を軽減する安全ガラス」の規定には含まれません。
- 破損時の破片による二次被害を防ぐため、使用部位によっては、単板ではなく「合わせガラス」への加工や、落下・脱落防止処置を講じることが推奨されています。
割れ方に差が出るのはなぜ?(内部のメカニズム)
製造方法が似ている倍強度ガラスと強化ガラスで割れ方が違う理由は、ガラス内部に蓄えられた「エネルギーの量」に関係があります。
内部の「引き合う力」の差
熱処理を施したガラスは、急冷によって表面に「圧縮応力層」を作り、内部に「引張応力層」を作ります。
割れる際、この内部の引張応力が一気に解放されるエネルギーの大きさが、破片の形状を決定します。
- 強化ガラス: 急冷により内部に高いエネルギーが蓄積されています。割れた瞬間にそのエネルギーが全体に連鎖し、ガラスを粉々に粉砕します。
- 倍強度ガラス: 緩やかに冷やすため、内部のエネルギーが強化ガラスに比べて低く抑えられています。そのため亀裂の連鎖が起きにくく、フロートガラスに近い大きな破片のまま留まります。
2つの「安全性」の使い分け
強化ガラスは破片を細かくすることで、「万が一、人に当たっても大怪我をさせにくい」という安全性を重視しています。
対して倍強度ガラスは、フロートガラスと同様の割れ方を維持することで、「サッシの溝に破片が噛み合いやすく、枠からの脱落を抑制する」という、二次被害を防ぐための安全性を重視しています。
用途に応じた選択肢
強度がさらに高い強化ガラスがある中で、あえて倍強度ガラスが選ばれるのには、実務上の大きなメリットがあります。
破損時の脱落抑制
強化ガラスは割れると粒状になり、自重や風圧で枠から一気に抜け落ちてしまう「脱落」のリスクがあります。
倍強度ガラスは破片が大きいため、サッシの溝(掛かり代)に引っかかりやすく、万が一の破損時にも枠に留まりやすいという性質があります。
自然破損(自爆)のリスク低減
強化ガラスには、不純物(硫化ニッケル)の膨張により、衝撃がなくても突然割れる「自爆」のリスクが稀にあります。※現実的には滅多に起こらない現象ですが、理論上、完全にゼロではないことを理解しておくことが重要です。
倍強度ガラスも自爆の可能性はゼロではありませんが、非常に稀であるとされています。長期的な安全管理を考える際、この安定性は有力な判断材料となります。
取り扱いのポイント
倍強度ガラスを検討する際に、あらかじめ知っておきたい性質がいくつかあります。
まず、熱処理をして仕上げた後のガラスは、切断したり穴を開けたりすることができません。
そのため、製作に入る前に正確な寸法を測り、仕様を確定させておく必要があります。
また、屋根やトップライト、手すりなどの人の転落・落下の恐れがある場所では、安全のため単板ではなく「合わせガラス」としての使用が強く推奨されています。
熱に対する強さは通常のガラスより優れていますが、条件によっては「熱割れ」の検討が必要になることもあります。
どのような場所で使われているか
倍強度ガラスは、そのバランスの良さから多くの建築物で活用されています。
もっとも多いのは、ビルの外装や「カーテンウォール」と呼ばれる垂直の窓の部分です。風の強さに耐えつつ、もし割れても下にガラスを落としたくない、という安全性が求められる場所でのスタンダードとなっています。
また、日差しを強く受ける大きな窓で、熱による割れを防ぎたい場合にもよく選ばれます。最近では、手すりや出入り口周りなど、より高いレベルの飛散・脱落防止性能が求められる部位において、2枚の倍強度ガラスを貼り合わせた「倍強度合わせガラス」として使うケースも増えており、強度と安全性の両立を実現する手法として定着しています。
まとめ
倍強度ガラスは、フロートガラスの「脱落しにくさ」と、強化ガラスに近い「強さ」を併せ持った、非常に合理的なガラスです。
決して「絶対に割れないガラス」ではありませんが、自爆のリスクを抑え、万が一の時にも被害を広げにくいという特徴は、建物の安全を守る上で欠かせないものとなっています。
それぞれのガラスの個性を正しく理解して選ぶことが、より安全で信頼できる空間づくりにつながります。































