ガラスは、熱を通しやすい素材として広く知られています。
では、ガラスが厚くなると断熱性能はどうなるか、ご存じですか?
実は、フロートガラスの場合、厚みを増しても断熱性はほとんど変わりません。
では、実際に厚さと断熱性の関係を詳しく見ていきましょう。
目次
ガラスの断熱性は「熱伝導」でほぼ決まる
材料を通って熱が移動する現象のうち、ガラスの熱移動は 熱伝導 が中心です。
ガラスは固体材料としては比較的熱を通しやすく、たとえば建築用途で一般的なフロートガラス(ソーダライムガラス)の熱伝導率は以下になります。
ガラスの熱伝導率
約 1.0 W/(m·K)
熱伝導率はその素材固有の値であり、厚みを 3mm にしようが 10mm にしようが変化しません。
つまり、“ガラス自体の熱の通しやすさ”は厚みによって改善しないのです。
断熱性は「表面熱伝達抵抗」が支配的
建築で使われる断熱性能の指標である U値(熱貫流率) は、
- 室内側の表面熱伝達抵抗(Rsi)
- ガラス自体の熱抵抗(厚さ/熱伝導率)
- 室外側の表面熱伝達抵抗(Rso)
の合計で決まります。
実はこのうち、表面熱伝達抵抗の占める割合が非常に大きいため、ガラス厚が断熱性に与える影響は極めて小さいのです。
ガラス単体の厚みを増やしても、熱の逃げやすさはほとんど変わらず、表面の抵抗(熱の出入り口)が断熱性能を決めます。

シミュレーション:ガラスを極端に厚くしたら断熱性はどうなる?
現実的には 3〜10mm が建築でよく使われる厚さですが、断熱性への影響をより明確にするために30mm や 100mm(10cm)という極端な厚さも含めて比較します。
▼ 前提条件
- 熱伝導率 λ = 1.0 W/(m·K)
- Rsi = 0.11
- Rso = 0.04
これらで計算すると以下のようになります。
■ 単板ガラスの厚さ別 U値(3〜100mm)
| ガラス厚 | 総熱抵抗 Rtotal | U値(W/㎡K) |
|---|---|---|
| 3mm | 0.153 | 6.54 |
| 6mm | 0.156 | 6.41 |
| 10mm | 0.160 | 6.25 |
| 30mm | 0.180 | 5.55 |
| 100mm | 0.250 | 4.00 |
シミュレーション結果から分かること
30mm にしても U値は 6.4 → 5.55 程度
わずか 約 0.8 の改善であり、実務上は誤差に近いレベルです。
100mm(10cm)という現実離れした厚さでも U値は 4.00
ガラスを 33 倍厚くしても、U値は 1/1.6 程度にしか下がりません。
結局、ガラスは「熱伝導率が高すぎる」
どれだけ厚くしても、ガラスは断熱材にはなりません。
これは、コンクリート(λ ≒ 1.6)に近い、熱をよく通す材料であることが理由です。
ではなぜ複層ガラスは断熱性が高いのか?
一方、複層ガラス(ペアガラス・トリプルガラス)は高断熱として知られています。
この違いの理由は以下の通りです。
▼ 複層ガラスの断熱性能を生む主役は「空気層・ガス層」
- 空気層が対流を抑える
- アルゴンやクリプトンガスが熱伝導を低減する
- Low-E膜が放射熱をカットする
つまり、ガラスの断熱性を高めているのは“ガラスそのもの”ではなく“ガラスとガラスの間の空気層”です。

ガラス単体で断熱性を高める方法は?
厚みではなく、以下のような方法が効果的です。
● Low-Eガラス
金属膜により放射熱を抑え、単板としては最も断熱性が高い。
● 熱線吸収ガラス・熱線反射ガラス
冷房負荷低減に寄与するが、断熱(冬期)への効果は限定的。
断熱性ではなく “強度” の観点では厚みが重要
ガラス厚が断熱性に影響しないとはいえ、厚みを増す合理性は確かに存在します。
▼ 厚みが重要となるケース
- 厚みを増す=強度・耐荷重の確保
安全性・構造的要求であり、断熱とは役割が異なります。

まとめ:ガラス厚は「強度」、断熱は「構造」で決まる
この記事で扱ったように、ガラスの厚みは断熱性にほとんど影響しません。
・ガラス厚を増やしても断熱性能はほぼ変わらない
・ガラスは素材として熱を通しやすく、断熱材にはならない
・断熱性能を高める決定要因は“空気層・ガス層・Low-E膜”
・厚みは断熱ではなく「強度」のために必要
ガラスの断熱性の正しい理解は、建築設計、中期的な仕様検討、さらにはガラス工事の技術判断において非常に重要です。

