キッチンや飲食店の焼き場における仕切りガラスやオイルガードは、単なる油はね防止材ではなく、安全性、衛生性、そして空間の質を左右する建築要素です。
熱源に近接する環境下では、一般的なガラスでは熱割れや破損のリスクが伴います。
本記事では、家庭用からプロの業務用厨房まで、用途に応じた最適なガラスを選定するための基準と、各ガラスの専門的な特性を解説します。
目次
仕切りガラス・オイルガードに必要な性能
高温環境下で使用されるガラス建材には、特に以下の3つの性能が不可欠です。
耐熱性・耐熱衝撃性
火や高温の調理器具、急激な温度変化(熱衝撃)に耐え、熱割れを起こさない性能が必要です。
- 一般家庭: 蒸気や油の温度変化に耐えることが求められます。
- 業務用厨房・焼き場: 炭火やガス火の直火、または500℃以上に達するガラス表面温度に耐える耐熱ガラスの選定が必須となります。
安全性(破損時のリスク管理)
万が一、外的衝撃や熱割れで破損した場合でも、鋭利な破片が飛散せず、人身事故のリスクを最小限に抑えることが求められます。強化ガラスなどがこの要件を満たします。
メンテナンス性
油汚れや水垢の付着を考慮し、日常的な清掃が容易であることが重要です。

【用途別】最適なガラスの選定
設置場所に応じて、最適なガラスの種類を選びましょう。
| 設置場所・条件 | 主な熱源リスク | 推奨ガラスの種類 | 選定理由と特長 |
|---|---|---|---|
| A. 一般家庭キッチン | 蒸気、油はね、調理器具の熱(直火ほぼなし) | 強化フロートガラス | 耐熱温度は150℃ ~ 200℃。価格と安全性のバランスが最も優れており、家庭用には十分な耐熱性。割れても粒状になり安全。 |
| B. 業務用(軽度な熱) | 湯気、蒸気、油はね程度(直火なし) | 強化フロートガラス | 飲食店でも、直火が当たらず間接的な熱負荷のみであれば、コスト効率に優れる強化ガラスが選択肢に入る。 |
| C. 業務用(高温・直火あり) | 炭火、ガス火の直火、極度の高温 | テンパックスフロート | 耐熱温度約500℃。熱膨張率が極めて低く、高温環境下での安定性に優れる。高い透明度で調理の臨場感演出に最適。 |
| D. 業務用(極めて高温・高安全性) | 炎が直接当たる焼き場、高負荷環境 | ファイアライト(結晶化ガラス) | 耐熱温度約800℃。熱膨張率がほぼゼロ。最も高い耐熱性と安全性を誇り、業務用厨房の究極の選択肢。 |
主要ガラスの比較
耐熱ガラスと強化ガラスの決定的な違いは、急激な温度変化に対する強さ(耐熱衝撃性)と耐熱限界温度にあります。
| ガラス種類 | 耐熱温度(限界点目安) | 主な成分と特性 | 適用環境 |
|---|---|---|---|
| 強化フロートガラス | 150 ~ 200℃ | ソーダ石灰ガラス。表面に圧縮応力を与えることで強度を向上。熱衝撃に弱い。 | 家庭用、間接熱のみの環境 |
| テンパックスフロート | 約 500℃ | ホウケイ酸ガラス。熱膨張率が極めて低く、高い耐熱衝撃性を持つ。 | 炭火など高温の熱源に近接する場所 |
| ファイアライト | 約 800℃ | 結晶化ガラス。熱膨張率がほぼゼロ。炎が直接当たる環境でも使用可能。 | 最高の安全性と耐熱性が求められる焼き場 |
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注意点
ガラスの厚み選定(構造と熱応力への配慮)
ガラスの厚みは、サイズに対する構造的な安定性と、熱応力への耐性の両方に影響します。
- 設置場所の寸法、熱負荷の大きさに基づき、適切な厚みを選定することが不可欠です。
- 特に耐熱ガラスの場合、適切な厚みを選定することは、熱応力による破損リスクを低減し、安全性を確保するための重要な要素となります。
メンテナンス
清掃は中性洗剤と柔らかい布での拭き取りが基本です。
耐熱ガラスであっても、表面に傷がつくと強度が低下する原因となります。研磨剤入りの洗剤や硬いスポンジの使用は厳禁です。

まとめ
| 用途 | 最適なガラス | 留意点 |
|---|---|---|
| 家庭・軽作業用 | 強化フロートガラス | コスト効率良し。直火厳禁。 |
| 業務用・直火あり | テンパックスフロート または ファイアライト | 安全性を優先し、必ず耐熱ガラスを選定。適切な厚みと固定方法の検討が必須。 |
キッチンや焼き場の仕切りガラスの選定は、「火が当たるか否か」という一点で、強化ガラスと耐熱ガラスのどちらを選ぶかが決まります。
安全性と美観を両立させるため、用途に合った正確な材料選定を行い、安心で快適な厨房環境を実現しましょう。
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