建築基準法における「防火ガラス」は、火災時の延焼を防ぐための重要な要素であり、適切に使用することで火災被害を軽減できます。
この記事では、防火ガラスに関する基礎知識から種類、設置基準、選定ポイントを解説します。
目次
そもそも「防火設備」とは?|建築基準法における定義
防火設備とは、建物に設置されることで火災時に火の広がりを抑制し、「遮炎性能」を持つ設備のことを指します。
これは、建物が延焼を防ぐために必須とされるもので、建築基準法(第二条第九号の二)で定義されています。
建築基準法では、防火設備はその性能によって「防火設備」と「特定防火設備」の2種類に分けられます。
一般的に「防火設備」と呼ばれるものは、通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さない性能が求められます。(建築基準法施行令第109条の2)
建築基準法施行令第109条の2(遮炎性能に関する技術的基準)
法第二条第九号の二ロの政令で定める技術的基準は、防火設備に通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後20分間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものであることとする。
一方、「特定防火設備」は、より厳しい性能基準として、加熱開始後1時間当該加熱面以外の面に火炎を出さない性能が求められ、防火区画を区画する壁などに設置されることが多いです。(建築基準法施行令第112条)
建築基準法施行令第112条(防火区画)
(中略)
2 前項の防火区画は、次に定める構造としなければならない。
一 耐火構造とすること。
二 防火設備(通常の火災時における火熱を有効に遮ることができるものとして政令で定めるものに限る。)を有する出入口その他の開口部以外の開口部を有しないものであること。
具体的には、防火扉、防火シャッター、そしてこれらの防火性能を有する防火ガラスなどが防火設備および特定防火設備に該当します。
これらの設備は、火災の初期段階で炎や煙の侵入を防ぎ、避難時間を確保する上で重要な役割を果たします。
防火ガラスとは、火災が発生した場合に火炎を遮断する機能を持つガラスのことです。
建築基準法に基づいて設置される場所や基準が定められており、これに従わなければなりません。
防火ガラスとして認められるためには、設置される場所や求められる性能に応じて、国土交通大臣が告示で定める仕様に適合するか、または国土交通大臣の認定を受ける必要があります。
特定防火設備に使用されるガラスは、より高い耐火性能(1時間)が求められるため、耐熱強化ガラスなどが用いられることが多いです。
国土交通大臣が定める仕様の例としては、平成12年建設省告示第1360号および第1369号があります。
平成12年建設省告示第1360号(防火設備の構造方法を定める件)
第一 建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第百九条の二に定める技術的基準に適合する防火設備の構造方法は、次に定めるものとする。
一 建築基準法施行令第百十四条第五項において読み替えて準用する同令第百十二条第十六項に規定する構造方法を用いるもの又は同項の規定による認定を受けたものとすること。
二 次のイからホまでのいずれかに該当する構造とすること。
イ 鉄製で鉄板の厚さが〇・八ミリメートル以上一・五ミリメートル未満のもの
(中略)
ニ 鉄及び網入ガラスで造られたもの
平成12年建設省告示第1369号(特定防火設備の構造方法を定める件)
第一 通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一時間加熱面以外の面に火炎を出さない防火設備の構造方法は、次に定めるものとする。
一 建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第二十一条第二項第二号に規定する構造方法を用いるもの又は同号の規定による認定を受けたもの(建築基準法施行令第百九条の五第一号に規定する火災継続予測時間が一時間以上である場合に限り、同条第二号の国土交通大臣が定める面を有するものを除く。)とすること。
(中略)
三 次のイからニまでのいずれかに該当する構造とすること。
イ 骨組を鉄製とし、両面にそれぞれ厚さが〇・五ミリメートル以上の鉄板を張った防火戸
(中略)
防火ガラスが必要になる場所とは?
防火ガラスは、火災時に火が延焼するのを防ぐために必要な場所に設置することが義務づけられています。
以下は、代表的な防火ガラスが必要とされる場所です。
隣地境界線から1m未満の開口部
建物と隣接する敷地の境界から水平距離で1m未満の「延焼のおそれのある部分」に設けられる窓やドアには、防火ガラスが必要です。(建築基準法第23条)
これは、火災が隣地に延焼するのを防ぐために、一定の防火性能(例:20分以上の防火性能)を備えたガラスが求められます。
防火区画内の開口部
防火区画は、建物内部で火災が発生した場合に、その火災を一定の範囲に閉じ込めるために設けられた区画です。(建築基準法第28条)
竪穴区画、異種用途区画などがあり、これらの区画内に設ける開口部に使用されるガラスには、区画の種類に応じて防火性能が求められます。
店舗やビルの階段室・廊下のガラス
建物内の避難経路である階段や廊下に設けられる窓や壁に設置されるガラスには、火災時の安全を確保するために防火設備としてのガラスが使用されます。(建築基準法施行令第120条など)
これは、避難経路を煙や炎から守り、安全な避難を確保するために重要です。内装制限との関連も考慮する必要があります。
防火ガラスの種類と特徴
防火ガラスにはいくつかの種類があります。
それぞれに特徴があり、使用する場所や求められる性能に応じて選ぶ必要があります。
種類 | 特徴 | 使用例 | コスト感 |
---|---|---|---|
網入りガラス | ガラスの中に金属の網が埋め込まれており、火災時に割れても破片が飛散しにくい特性があります。比較的安価で広く使用されています。国土交通大臣が告示で定める仕様に適合することで、防火設備として認められる場合があります。 | 商業施設やオフィスビルの窓、商店の出入口など。 | △ 比較的安価 |
耐熱強化ガラス | 特殊な処理により強化されたガラスで、高い耐熱性を持ち、通常のガラスよりも高温に耐える強度があります。透明度が高く、視認性に優れています。 | 店舗やオフィスビル、重要施設のガラス部分など、高い防火性能と意匠性が求められる場所に使用されることが多いです。 | ○ 網入りより高価 |
複層耐熱ガラス | 複数のガラス板の間に空気層や特殊なガスを封入した二重構造で、断熱性能に加えて熱を遮断する性能があり、熱衝撃に強いという特徴を持ちます。安全性を特に重視する現場に適しています。 | 高温を想定する施設や、耐火性を強く求められる場所。 | △ 高価 |


防火ガラスに必要な認定とマーク
防火設備として認められるためには、国土交通大臣が告示で定める仕様に適合するか、または国土交通大臣の認定を受ける必要があります。
告示で定める仕様に適合する場合
一般的に広く流通している網入りガラスの一部は、この仕様に適合することで防火設備として用いられています。
※これらの製品には、必ずしも個別の認定マークが付いているとは限りません。
国土交通大臣の認定を受けた場合
認定を受けたガラス製品には、認定番号や防火性能を示すマークが刻印またはラベル表示されていることがあります。
これは、製品がより厳格な基準を満たしていることを示すものです。
よくある誤解とトラブル事例
「網入りガラス=すべて防火」
実際には、網入りガラスがすべて防火設備として認定されているわけではありません。
国土交通大臣が告示で定める仕様に適合するか、認定を受けたもののみが防火ガラスとして使用可能です。
※網が入っているからといって、必ずしも防火性能を満たしているとは限りません。(デザインガラスなど)
「防火ガラスだけでは安全ではない」
防火ガラスは火災の延焼を防ぐための重要な要素ですが、それだけで完全に火災を防げるわけではありません。
サッシ(窓枠)やドアなどの周囲の部材や、施工方法が適切でないと、防火性能を十分に発揮できない場合があります。
防火設備は、ガラスだけでなく、周囲の部材との組み合わせでその性能が評価されます。
「認定がないガラスを使用してしまった」
告示で定める仕様に適合しない、または認定を受けていないガラスを防火設備として使用した場合、建築基準法に違反するリスクがあります。
法令違反は、工事の差し止めや罰則の対象となる可能性がありますので、使用するガラスが適切な法的根拠に基づいているかを確認することが重要です。
まとめ|防火ガラス選定は「用途+法令+現場条件」の三位一体で
防火ガラスの選定には、建物の用途、建築基準法をはじめとする法令、そして現場の具体的な条件(開口部の大きさ、求められる防火性能、意匠性など)を総合的に考慮することが最も重要です。
どの場所にどのガラスを使用すべきか、法令に基づく選定基準を理解し、現場の条件に合った適切な防火性能を持つガラスを選ぶことが求められます。
防火ガラスの選定に関して不明点がある場合は、建築士や防火設備に詳しい専門の業者に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。
相談する際には、建物の図面や、設置を予定している場所の状況、求める防火性能などを具体的に伝えることが大切です。
