建設業界では、長年「人手不足」が大きな課題として取り上げられています。
この問題は以前から指摘されてきましたが、近年その深刻さが増しており、現場に立っていても「若い職人が少ない」と感じる場面が増えてきました。
現場の実情を見てみると、年齢層が偏っており、特に30代以下の若手職人は非常に少ないのが現実です。
なぜこれほどまでに建設業界で人手不足が加速しているのでしょうか?
本記事では、データや現場の実情を基に、業界が直面している課題とその背景を深掘りし、どのようにこの問題を解決していけるのかを考察してみます。
目次
若年層が少ない業界構造
建設業界で「若手職人が少ない」という問題は、長年にわたって指摘されてきました。
特に、国土交通省の「建設業の現状と課題(令和5年版)」によると、建設業従事者のうち29歳以下はわずか12.2%、一方で55歳以上は36%を占めていることがわかります。
私自身も現場に立つと、20代の職人と出会う機会が本当に少なくなったと実感しています。
30代でも「若手扱い」とされる場面が増えてきており、年齢構成が偏っていることが、今後さらに人手不足を引き起こす要因になっています。
このままでは、退職する年齢層の職人が増え、現場に若い力が不足していくことは間違いありません。
若者の参入を促進するためには、まず業界がどのような状況にあるのかを理解し、対策を打っていく必要があります。

長時間労働のイメージと現実のギャップ
建設業界には長年、過剰な労働時間が当たり前のように存在してきました。
特に若者にとっては、「長時間労働」や、「3K」といったイメージが、参入の障壁となっていました。
しかし、最近では働き方改革が進み、建設業界にも時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。
2024年からは、建設業にも時間外労働の上限が設けられ、月45時間、年360時間を超えることは基本的に禁止されています。
このような改革が進む一方で、現場の実情を見ると、依然として忙しい時期には過剰な労働が発生することもあります。
令和4年度の厚労省の統計によると、建設業の年間平均労働時間は2,060時間で、全産業平均の約1,800時間を上回っています。
このデータからも、建設業界ではまだ労働時間に対する調整が必要であることがわかります。
それでも、働き方改革が進んでいることは確かで、昔に比べると「働きやすい職場」作りは進んでいます。
しかし、現場での実態を踏まえると、改革の効果が完全に浸透するには時間がかかる部分もあります。


給与面の改善と情報の届かなさ
建設業の給与水準は確実に改善しています。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(令和5年)」によると、建設業の平均賃金(月額)は約38万円で、全産業平均(約34万円)を上回っています。
(※あくまで全体の平均値であり、職種、経験、地域、企業規模などによって給与額は大きく異なります。)
特に熟練技術者や施工管理者の年収は600万円以上も可能で、給与面での魅力は増してきています。
しかし、給与水準が改善しているにもかかわらず、「建設業=厳しい、低賃金」というイメージが根強いため、新たに参入する若者にはその魅力が届いていないのが現実です。
建設業の給与水準が改善していることが十分に広まっていないため、若者は依然として「きつい仕事」「低賃金」といったイメージを持ち続けているのです。

職人へのイメージと実際の現場
建設業界には、どうしても「職人」という言葉に対して厳しく、古臭いイメージを持たれることがあります。
「怖い」「古い」など、職人のイメージがあまり良くないことも事実です。
しかし、私が現場で接している職人たちは、そのイメージとは真逆で、非常に温かく、面倒見の良い人たちが圧倒的に多いのです。
私の祖父も大工をしていましたが、今で言えばその厳しさはハラスメントに該当するような部分もあったかもしれません(笑)とはいえ、彼のような職人たちは、若手に対して非常に優しく、真摯に技術を伝える姿勢を持っていました。
現代の職人たちも、若者に対して根気強く指導し、良い人間関係を築いていく姿勢が多く見受けられます。
建設業界の職人たちは、単に技術を持っているだけではなく、他者を育てる能力にも長けています。
若手職人たちが自信を持てるよう、丁寧に技術を教える姿勢は、業界内でも非常に貴重なものです。

IT化だけでは解決しない、現場の人手不足
最近では「建設業界にもITの波が来ている」「これからは効率化で乗り切れる」という声もよく聞かれるようになりました。
たしかに、BIMやドローン、現場管理アプリといったツールの導入は着実に進み、働き方の選択肢も広がりつつあります。
ですが、現場に立ってみると、それだけで人手不足が解決するほど甘くはない──というのが実感です。
ITツールは「作業を効率化する手段」ではあっても、「手を動かす人間そのものの代わり」にはなりません。
たとえば足場の組立、コンクリートの打設、ガラスの施工、設備の取り付け──どれも専門性が高く、現場で経験を積んだ人間の技術が不可欠です。
また、ベテラン職人の中には「スマホを持たない」「タブレットは苦手」という人も少なくなく、導入したツールが現場で使われず形骸化してしまうケースも多々あります。
結局、ITだけ先行しても「使う人」が育っていなければ意味がないのです。
むしろ注目すべきは、若手や外国人スタッフが自然とITを使いこなし、現場の新しい流れをつくりつつあるという点。
彼らは、日報も写真もすぐスマホで対応し、クラウドのやり取りにも柔軟に対応できます。
こうした人材が増えれば、業界全体の働きやすさも徐々に変わっていくはずです。
だからこそ、「ITがあるから人が要らない」のではなく、「ITを使いこなせる人材が、これからの現場を支えていく」という考え方が重要だと感じます。

外国人労働者に支えられる現場
現在、建設業界では外国人労働者の割合が増加しており、職人が現場で活躍しています。
法務省の統計(2023年)によると、建設分野に従事する外国人労働者の数は約14.5万人に達し、過去最多を記録しました。
現場では、外国から来た職人たちは非常に頼りにされており、真面目で技術も高く、しっかりと仕事をこなしてくれています。
しかし、外国人労働者に依存しすぎることには限界もあり、言語や文化の違い、ビザの問題などが絡むため、長期的な解決策としては国内の人材育成と確保が必要です。

まとめ
建設業界での人手不足の問題は、若年層の参入が少ないこと、長時間労働のイメージ、給与面の認識不足、外国人労働者への依存、そしてテクノロジーの導入が進む中でのバランスがうまく取れないことなど、複数の要因が絡み合っています。
しかし、これらの課題を解決するためには、業界全体で魅力的な職場環境を作り出し、若者へのアプローチを強化することが不可欠です。
また、職人たちが持つ優れた指導力や温かい人間関係も、建設業の魅力の一部です。
職人という言葉が持つイメージを払拭し、「やりがいがあり、安定した収入が得られる」業界として、より多くの若者に魅力を伝えることが必要なのかもしれません。

