「ペアガラス」と「複層ガラス」。
似たような場面で使われるこの2つの言葉に、一体どのような違いがあるのか、曖昧に感じている方は少なくありません。
また、よく似た言葉に「二重サッシ」もありますが、これらが構造的にどう違うのかご存じでしょうか。
実は、これらの言葉の定義や「熱を遮断する仕組み」には、直感とは少し異なる事実が隠されています。
今回は、言葉の整理から熱伝導の科学的な裏付けまで、それぞれの疑問を順を追って解説します。
目次
「ペアガラス」と「複層ガラス」の定義の違い
まず、これらの言葉の正体を整理します。
結論から言えば、製品としては同一のものを指しています。
- 複層ガラス(JIS名称):JIS規格(JIS R 3209)において定義されている正式名称です。
2枚(またはそれ以上)のガラスを重ね、その間に密閉された中空層を持つガラスユニットを指します。 - ペアガラス(登録商標):業界最大手のAGC(旧 旭硝子)の登録商標です。
普及の過程で認知度が高まったことから、メーカーを問わず「2枚重ねのガラス」を指す呼称として広く定着しています。

ガラスは「厚く」しても断熱性は向上しない
ここで、技術的な視点から重要な事実を解説します。
「1枚ガラスを厚くすれば、熱を通しにくくなる」という認識を持つ方も多いですが、実はガラス自体の厚みは断熱性能にほとんど寄与しません。
ガラスの熱伝導率の限界
材料を通って熱が移動する「熱伝導」において、ガラスは固体材料としては比較的熱を通しやすい素材です。
その熱伝導率は、実はコンクリートに近い値を持っています。
実際に厚さを変えて、断熱性能の指標である「U値(熱貫流率)」をシミュレーションした結果は以下の通りです。
| ガラスの厚さ | 総熱抵抗 Rtotal | U値(W/㎡K) |
| 3mm | 0.153 | 6.54 |
| 30mm (3cm) | 0.180 | 5.55 |
| 100mm (10cm) | 0.250 | 4.00 |
※U値は数値が小さいほど断熱性が高く、熱が逃げにくいことを示します。
33倍もの厚さ(100mm)にしても、U値の改善はわずかです。
つまり、ガラスの厚みを増すことは「強度や耐荷重」の確保には不可欠ですが、「断熱」の解決策にはならないのです。

複層ガラスが断熱性能を発揮するメカニズム
ガラスそのものが熱を通しやすい素材である以上、断熱性を高めるためには「構造」を変える必要があります。
それが「複層ガラス」の存在意義です。
性能の主役は「中空層」
複層ガラスの断熱性能を生み出しているのは、ガラスそのものではなく、2枚のガラスの間に閉じ込められた「空気層(またはガス層)」です。

「複層ガラス」と「二重サッシ」の構造的相違
最後にもう一つの混乱ポイントである「二重サッシ」との違いについて解説します。
これらは「ガラスの構造」か「サッシの構成」かという明確な違いがあります。
複層ガラス(ペアガラス)
- 分類: ガラスユニット単体の種類。
- 構造: 1つのサッシ(窓枠)の中に、複数枚のガラスが組み込まれている。
- 特徴: サッシの数は1つのため、開閉動作や見た目は単板ガラスの窓と変わらない。
二重サッシ(二重窓・内窓)
- 分類: 窓の設置構成。
- 構造: 既存の窓の内側に、もう一つ独立したサッシを設置すること。
- 特徴: 窓と窓の間に大きな空気層ができるため、断熱だけでなく遮音性能も大幅に向上する。ただし、開閉動作は2回必要。
まとめると、複層ガラスと二重サッシは「どちらか一方を選ぶもの」ではなく、断熱をどの層で、どの規模で確保するかという構造の違いに過ぎません。
複層ガラスはガラス内部で空気層をつくり、二重サッシは窓の構成そのものを二重化することで空気層を確保します。
寒冷地では、両者を組み合わせて空気層を重ねる設計が採用されることもあり、断熱性能はガラスの厚みではなく、空気層をどう設計するかによって決まることが分かります。

まとめ:ガラス厚は「強度」、断熱は「構造」
今回のポイントを整理すると以下の通りです。
- ペアガラスと複層ガラスは同一: 正式名称は「複層ガラス」であり、ペアガラスは商標である。
- 厚みと断熱は比例しない: ガラス単体の厚みを増やしても熱伝導の高さは変わらず、断熱性能はほぼ向上しない。
- 空気層が性能の正体: 複層ガラスの価値は、ガラスの間の「空気層」による熱移動の遮断にある。
- 二重サッシは構成の違い: 1つのサッシで完結するのが複層ガラス、2つのサッシを重ねるのが二重サッシ。
ガラスという素材の限界を、空気の層という「構造」で補う。
複層ガラスの仕組みを知ると、単なる厚みだけでは測れない熱移動の面白さが見えてきます。
「厚いほうが強そうだが、断熱には空気が主役」というこの事実は、あらゆる空間の熱環境を考える上での大きなヒントとなるはずです。































