建築物において、空間を仕切りながら視線や光を通す「ガラス」は、音の対策を考える上でもっとも重要な場所の一つです。
音は壁よりもガラス面から伝わりやすいため、静かな環境を作るためにはガラスが持つ「音の性質」を正しく知ることが欠かせません。
目次
ガラスの防音性能を決める「3つの現象」
ガラスの防音性能は、単に「隙間をなくす」ことだけでなく、ガラスそのものが持つ物理的な性質に左右されます。
まずは、基本となる3つの仕組みを押さえましょう。
重いほど音を遮る「質量則(しつりょうそく)」
「音を遮る材料は、重ければ重いほど音を通しにくくなる」というルールです。
ガラスの場合、重くするということは「厚くする」ことを意味します。
理論上、重さが2倍になると防音性能(遮音性能)は約5dB(デシベル)上がります。
ただ、人間が「音が半分になった」とはっきり感じるには10dB程度の差が必要なため、厚くするだけで劇的な効果を出すには、かなりの厚みが必要になります。
高い音が通り抜ける「コインシデンス効果」
ガラスに特定の高い音が当たったとき、ガラスそのものが細かく震えて、音がスッと通り抜けてしまう現象です。
この現象が起きると、本来の性能よりも防音力が落ちてしまいます。
一般的なガラスでは、高い音(2,000Hz〜4,000Hz付近)で起きやすく、アラーム音、電子音、楽器の高い音、機械の金属音などが漏れやすくなる原因になります。
音が響き合う「太鼓現象」
2枚のガラスの間に空気の層がある「複層ガラス」などで起きる現象です。
閉じ込められた空気がバネのような役割をして、2枚のガラスを一緒に揺らしてしまい、音を増幅させて通してしまいます。
これは低い音で起きやすく、2枚のガラスで仕切ったのに、周囲の低い振動音や機械音が以前より響くようになったというケースは、この現象が原因かもしれません。

ガラスの種類と得意な音・苦手な音
ガラスの構造によって、防ぎやすい音と防ぎにくい音があります。
1枚のガラス(単層ガラス)
- 特徴: 基本的には厚いほど、低い音〜中くらいの音を防ぐ力が強くなります。
- 弱点: 高い音になると「コインシデンス効果」で音が漏れやすくなります。
複層ガラス
2枚のガラスの間に乾燥空気などを封入したものです。
断熱性能にはとても優れていますが、防音については工夫が必要です。
- 同じ厚みの組み合わせ(3mm+3mmなど): 2枚が同じ音で震えてしまうため、防音性能がガクンと落ちるポイントが目立ちます。
- 違う厚みの組み合わせ(3mm+5mmなど): 2枚の震え方をあえて変えることで、お互いの弱点をカバーし合い、防音性能が落ちるのを防ぎます。
防音合わせガラス
2枚のガラスの間に、振動を吸収する特殊な中間膜(防音フィルム)を挟んだものです。
- メリット: 中間膜がクッションのように振動を吸収するため、高い音の漏れ(コインシデンス効果)を強力に抑え込みます。「重さ」と「振動の吸収」を両立した、防音に理想的なガラスです。
「空気層」のヒミツ
音楽スタジオや放送局を見ると、ガラスとガラスの間が20cm〜30cmも離れていることがあります。
これには深い理由があります。
空気層を広げるメリット
一般的な複層ガラスは空気の層が1.2cmほどしかなく、この狭さが「硬いバネ」になってガラスを揺らしてしまいます。しかし、この間隔を8cm、10cm、20cmと広げていくと、空気のバネがとても柔らかくなります。
すると、音が響き合ってしまう「太鼓現象」がほとんど起きなくなり、低い音から高い音までバランスよく防げるようになります。
POINT
- 吸音材を使う: ガラスとガラスの間のフレーム内側に吸音材を貼り、内部で音が反響するのを防ぎます。
- ななめに設置する: 2枚のガラスを平行にせず、あえて角度をつけて設置することで、音がガラスの間で跳ね返り続けるのを防ぎます。

性能の目安:JIS規格「T値」
窓やドアの防音性能を比べるときに役立つのが、JIS規格の「T値」という指標です。数字が大きいほど高性能です。
| 等級 | 防音性能の目安 | 効果のイメージ |
|---|---|---|
| T-1 | 25dB下げる | 一般的な仕様。普通の騒音を少し和らげる。 |
| T-2 | 30dB下げる | 少し高性能な仕様。静かさを意識した空間向け。 |
| T-3 | 35dB下げる | 防音合わせガラスなどを使った、高い防音性能。 |
| T-4 | 40dB下げる | 二重構造(内窓設置など)を含む、きわめて高い防音性能。 |
※T値は試験条件下での代表的な性能目安であり、実際の効果は設置条件や状況によって前後します。
※80dB(ピアノの音や騒々しい工場など)をT-4の構造で防ぐと、反対側では40dB(静かな図書館レベル)まで抑えられる計算です。
枠(サッシ)の隙間と開け閉めの形
どんなに良いガラスを選んでも、それを取り付ける「枠」に隙間があれば音は漏れてしまいます。
- 隙間の影響: 音はわずかな隙間からも入り込みます。左右にスライドさせる引き違い形式は構造上、隙間ができやすいため、防音を重視するならFIX形式(開かない窓・壁)や、パッキンを強く押し付ける開き戸・開き窓が有利です。
- 気密性の維持: 枠のゴムパッキンが古くなって硬くなると、そこから音が漏れ始めます。定期的にチェックすることが、防音性能を長持ちさせる秘訣です。
まとめ
ガラスで防音対策を成功させるポイントは以下の3つです。
- 目的に合わせて選ぶ: 断熱が目的の「複層ガラス」と、防音が目的の「防音ガラス」は、得意分野が違うことを理解しましょう。
- 音の種類を考える: 防ぎたい音が「高い音」なのか「低い音」なのかで、最適なガラスの厚みや組み合わせが変わります。
- 隙間を徹底的に排除する: ガラスだけでなく、枠の隙間のなさ(気密性)と、丁寧な施工がセットになって初めて、理想的な静かさが手に入ります。
ガラスは一見どれも同じ板に見えますが、実はその種類や取り付け方によって、音の聞こえ方はガラリと変わります。
それぞれの性質を理解して、目的にぴったりのガラスを選ぶことが、静かで心地よい空間を作る第一歩となります。































