火災発生時、炎だけでなく、煙も大きな脅威となります。
煙は視界を遮り、避難経路を不明瞭にしてしまうだけでなく、一酸化炭素や二酸化炭素などの有毒ガスを含んでおり、吸い込むと命に関わることもあります。
そこで重要な役割を果たすのが防煙垂れ壁です。
目次
防煙垂れ壁とは
防煙垂れ壁は、天井から50cm以上垂れ下げた壁状の設備で、火災発生時に煙の流動を抑制し、避難時間を確保するものです。
防煙垂れ壁の誕生秘話
1923年の関東大震災
防煙垂れ壁の誕生には、1923年に発生した関東大震災が深く関わっています。
この震災では、木造建築物が多く燃え広がり、甚大な被害が発生しました。
火災による犠牲者の多くは、煙による窒息死だったと言われています。
この教訓から、火災発生時に煙の流動を抑制し、避難する時間を確保することが重要であると認識されました。
防煙垂れ壁の開発
関東大震災後、火災対策として様々な研究開発が進められました。
その中で、1931年に建築学者によって、防煙垂れ壁の原型となる煙止が考案されました。
煙止は、天井から垂れ下げた板で、火災発生時に煙が天井裏に溜まるのを抑制するものでした。
その後、煙止の研究開発が進められ、1950年に建築基準法に防煙区画の概念が導入されました。
防煙区画とは、火災が発生した場合に煙の流動を抑制し、避難経路を確保するために設けられる区画です。
防煙区画を構成する壁の一つとして、防煙垂れ壁が採用されました。
建築基準法に基づく設置基準
防煙垂れ壁は、建築基準法で定められた防煙区画を構成する防煙壁の一種であり、火災発生時に煙の流動を抑制し、避難時間を確保する役割を果たします。
2024年現在、防煙垂れ壁の設置基準は、以下の通りです。
1.1 防煙区画
建築物は、用途や規模に応じて、防煙区画に区分する必要があります。
防煙区画の境界には、防煙壁を設置する必要があります。
1.2 防煙壁
防煙壁には、防煙性能を有する材料を使用する必要があります。
防煙壁の構造は、火災発生時に煙の流動を抑制できるものとする必要があります。
防煙壁の高さは、天井から50cm以上とする必要があります。
1.3 防煙垂れ壁
防煙垂れ壁は、防煙壁の一種であり、天井から垂れ下げた壁です。
防煙垂れ壁の高さは、天井から50cm以上とする必要があります。
防煙垂れ壁の構造は、火災発生時に煙の流動を抑制できるものとする必要があります。
1.4 例外
一定の条件を満たす場合は、防煙垂れ壁の設置を省略することができます。
昔はガラス製だった防煙垂れ壁のデメリット
かつて、防煙垂れ壁はガラス製のものも多くありました。
しかし、近年では不燃シート製など、ガラス以外の防煙垂れ壁が主流となっています。
ガラス製防煙垂れ壁のデメリットは以下の通りです。
1. 重量
ガラスは不燃シートに比べて重いため、設置や撤去に手間がかかります。
また、建物の構造によっては、重量負担が問題となる場合もあります。
2. 破損リスク
ガラスは衝撃に弱いため、破損しやすいというデメリットがあります。
特に、地震や火災などの災害時には、破損による二次被害が発生する可能性が高くなります。
3. 耐火性能
近年では、耐火性能の高いガラスも開発されていますが、一般的なガラスはそこまで耐火性能がありません。
そのため、火災時の延焼を抑制する効果は限定的です。
現代の防煙垂れ壁|進化する安全と機能
防煙垂れ壁は、1931年に考案されて以来、火災時の安全確保に不可欠な存在として進化を続けています。
近年では、従来の機能に加え、デザイン性や機能性を高めた防煙垂れ壁が続々と開発されています。
1. 多様なニーズに対応する防煙垂れ壁
軽量で高強度な素材
従来のガラス製などに比べ、軽量で耐火性に優れたポリカーボネート製や不燃シート製の防煙垂れ壁が主流になりつつあります。
地震などの災害時にも安心な耐震性も向上しています。
デザイン性の高い防煙垂れ壁
空間の雰囲気に合わせた種類や、グラフィックパネルとしてデザインした防煙垂れ壁が開発されています。
オフィスや商業施設など、デザイン性を重視した空間にも設置可能です。
2. 防煙垂れ壁の設置事例
- オフィスビル:
- 開放的な空間を維持しながら、火災時の安全を確保するために、透明タイプの防煙垂れ壁が設置されています。
- デザイン性の高い防煙垂れ壁は、オフィスの雰囲気を向上させる効果もあります。
- 商業施設:
- 店舗の雰囲気に合わせたデザインの防煙垂れ壁が設置されています。
- 学校:
- 耐震性の高い防煙垂れ壁が設置されています。
- 児童生徒の安全を守るために、避難誘導サイン付きの防煙垂れ壁も開発されています。
製品紹介|フェンスクリアー(防煙垂壁)
「フェンスクリアー」は当社(足立硝子)の不燃シート製の防煙垂れ壁です。
東日本大震災や熊本地震にて、ガラス製防煙垂れ壁が破損、落下する事故が多く発生したこともあり、軽量で割れることのないシート製防煙たれ壁への改修工事の依頼が増えております。
シートバリエーション
V -33(クリア)
・透明性90%以上
・静電気防止仕様でホコリがつきにくい
・不燃認定番号 NM-4502
V-111(スリガラス風)
・スリガラス風の仕上げ
・静電気防止仕様でホコリがつきにくい
・不燃認定番号 NM-3400
取付タイプ
・テンションタイプ
フレームのないシンプルなタイプでスッキリとして見えます。
一番の軽量タイプです。9mを超える場合は中間にタテブレスが必要になります。
・フレームタイプ
パネル式のため取付が容易です。
テンションタイプのものよりも風による影響を受けづらく、揺れを軽減させます。ガラスの垂壁とデザインが近いため、違和感なく設置できます。
・耐震工法
タテブレスを使用し、柱や壁に直接取付けないので建物の揺れに影響を受け難い取付法です。
天井の下地の状態によっては取付不可の場合があります。
命を守る重要性と未来への展望
防煙垂れ壁は、火災発生時に煙の流動を抑制し、避難時間を確保する重要な設備です。
近年では、様々な機能性を備えた防煙垂れ壁が開発されており、今後も進化していくと考えられます。
防煙垂れ壁は、命を守るための重要な設備であり、今後も、さらなる機能性向上や環境への配慮、個性的なデザインなど、防煙垂れ壁は進化を続けていくでしょう。
当社では、お客様のご要望に合わせて最適な製品をご提案させていただいております。
施工のご依頼、ご相談など、足立硝子へお気軽にお問い合わせくださいませ。
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