洗面所や浴室の鏡の端に、黒いシミのようなものが発生したり、小さな黒い点が出てきたりすることがあります。
これは、「シケ」と呼ばれる「腐食(ふしょく)」現象です。
鏡は非常にデリケートな性質を持っており、特に水回りでの使用には注意が必要です。
なぜ鏡にこのような劣化が起きるのか、そのメカニズムと、対策について詳しく解説します。
目次
鏡の構造:反射の主役は「銀」
鏡は、ガラスそのものが光を反射しているわけではありません。
透明なガラスの裏面に、薄い「銀」の膜を付着させることで、光を跳ね返す仕組みになっています。
銀はあらゆる金属の中で最も光の反射率が高い素材ですが、同時に水分や酸素、化学物質に対して非常に敏感に反応し、変質(酸化)しやすいという弱点があります。
鏡の裏側には、この銀を保護するために銅メッキや特殊な塗料が重ねられていますが、完全に密閉されているわけではありません。
そのため、湿気や汚れにさらされることで、徐々に銀が傷んでしまうのです。
黒いシミ「シケ」が発生する原因
鏡の端や表面に現れる黒いシミ(腐食)は、以下のプロセスで発生します。
断面(エッジ)からの水の浸入
鏡は指定のサイズにカットして作られます。
このカットした断面(エッジ)は、保護塗料が途切れている場所であり、銀の層が最も露出している部分です。
ここから水分が入り込むのが、腐食の主なルートです。
銀の化学反応
浸入した水分が銀と接触すると、化学反応が起こります。
本来は光を反射する「銀」が、酸化して「酸化銀」などの別の物質に変わります。
変質した部分は光を反射できなくなるため、私たちの目には「黒いシミ」として見えるようになります。
補修ができない理由
この腐食はガラスの表面ではなく、ガラスと保護塗料の間に挟まれた「銀の層」で起きています。
そのため、一度黒くなってしまうと、外側からどれだけ磨いても元の状態に戻すことはできません。

鏡の腐食(シケ)
進行イメージ
水分の侵入により、断面から
じわじわと銀が酸化していきます
なぜ水回りでは腐食が進みやすいのか
鏡が水回りで劣化しやすい理由は、単に水がかかるからだけではありません。
- 毛細管現象: 鏡の縁に溜まったわずかな水滴が、微細な隙間から奥へと吸い込まれていきます。
- 埃(ほこり)の付着: 鏡の縁に埃が溜まると、その埃が湿気を保持し続けます。これにより、鏡の断面が常に湿った状態になり、腐食が加速します。
- 強力な洗剤の飛散: 浴室用やトイレ用の強力な洗剤(酸性・アルカリ性)が鏡に付着すると、保護塗装を透過して直接銀を腐食させることがあります。

鏡の劣化を抑えるための具体的な対策
鏡をより長く綺麗に保つためのポイントは以下の通りです。
対策1:鏡の「縁(ふち)」の水分を拭き取る
鏡の中央部分よりも、腐食の起点となりやすい「縁」を乾かすことが重要です。
入浴後や掃除の後に、縁に溜まった水滴を拭き取るだけで、鏡の寿命は大幅に延びます。
対策2:掃除には中性洗剤を使用する
鏡の清掃には、基本的に水拭きか中性洗剤を使用するのが一般的です。
酸性やアルカリ性の強い洗剤、あるいは研磨剤入りの洗剤は、鏡の構造を傷める可能性があるため推奨されません。
対策3:水回りには「防湿鏡」を採用する
湿気の多い場所では、標準的な鏡ではなく「防湿鏡」がよく採用されています。
これは、鏡の断面に特殊な塗料を塗布し、銀の層に水分が触れないよう工夫された鏡です。
一般的な鏡に比べ、水回りでの耐久性が格段に高くなります。
まとめ:適切なメンテナンスで鏡を長持ちさせる
鏡の腐食は、一度始まってしまうと表面を磨いても元に戻すことはできません。
だからこそ、日々のちょっとした「水分への配慮」が、数年後の鏡の透明感を左右します。
鏡を単なる消耗品としてではなく、繊細な金属を宿した道具として正しく理解し、扱う。
その積み重ねが、毎日を映し出す鏡の輝きを守ることにつながります。
もし、「拭いても取れない黒いシミ」が現れた際は、それは鏡の寿命を知らせるサインです。
その時は、現在の設置環境を見直したり、より耐久性の高い鏡を検討したりする一つのきっかけにしてみてください。































