教会や洋館、ホテルのロビーなどで見かける、色とりどりの光が差し込む美しいガラス。
光の角度によって模様が浮かび上がり、空間全体に幻想的な雰囲気をもたらす――それがステンドグラスです。
ステンドグラスは、単なる装飾ではなく、「光をデザインする建築素材」として、古くから世界中で愛されてきました。
本記事では、「ステンドグラスとは何か?」を解説します。
目次
ステンドグラスとは
ステンドグラス(英語:Stained Glass)とは、色のついたガラスを組み合わせて模様や絵柄を作る装飾ガラスのことを指します。
金属酸化物などでガラスを着色し、光を透過させることで美しい色彩を楽しめるのが最大の特徴です。
もともとは教会や礼拝堂の窓として発展しましたが、現代では住宅や商業施設などでも採用されています。
建築空間の採光や雰囲気づくりに大きく貢献する、「光を操るアートガラス」といえるでしょう。
「ステンドグラス」と「ステンドガラス」の違い
日本では「ステンドグラス」と「ステンドガラス」という2つの言い方が存在します。
結論から言えば、どちらも同じ意味ですが、使い方に若干の違いがあります。
- ステンドグラス(stained glass)
英語本来の発音に近く、建築・美術・インテリアなど専門分野ではこちらが正式な表記です。
文化財や美術館の解説でも「ステンドグラス」という表現が使われています。 - ステンドガラス
日本語として一般化した呼び方で、日常会話ではこちらが使われることもあります。
“ガラス”という語感に馴染みがあるためです。
つまり、「ステンドグラス」が正式名称で、「ステンドガラス」は日本語化された通称。
どちらを使っても問題ありませんが、専門的・建築的な文脈では「ステンドグラス」で統一するのが望ましいでしょう。
ステンドグラスの歴史
ステンドグラスの起源は古代ローマ時代にまでさかのぼります。
当時は色付きガラスを壁飾りやモザイクに使用しており、これがのちのステンドグラスの原型となりました。
本格的に芸術として発展したのは中世ヨーロッパのゴシック建築期。
12〜13世紀にかけて、フランスのシャルトル大聖堂やパリのノートルダム大聖堂で大規模なステンドグラスが制作され、聖書の物語を色と光で表現する「宗教画」の役割を果たしました。
その後、ルネサンス期には絵画技術との融合が進み、より写実的な作品が登場。
19世紀にはイギリスのウィリアム・モリスや、アメリカのルイス・C・ティファニーらによって芸術的価値が再評価され、アール・ヌーヴォー様式の装飾として再び注目を浴びます。
日本には明治時代に伝来し、最初は教会や公共建築で使われました。
現在では、住宅や商業施設のアクセントガラスとしても普及し、建築デザインの一部として定着しています。

ステンドグラスの特徴
ステンドグラスの魅力は、何といっても光と色の融合です。
時間帯や光の角度によって見え方が変化し、同じ空間でも表情が常に移り変わります。
主な特徴は以下の通りです。
- 色彩の美しさ:光を通すことで、空間に深みのある色を映し出します。
- デザインの自由度:幾何学模様から植物・風景まで、デザイン次第で印象が大きく変わります。
- 耐久性の高さ:ガラス片を鉛や真鍮のケイム(枠材)で固定するため、適切に施工すれば長く美しさを維持できます。
- プライバシー性:透過しながらも視線をやわらげる効果があり、玄関やパーティションにも最適です。

ステンドグラスの用途
ステンドグラスは宗教施設だけでなく、住宅・商業建築など幅広い場所で使われています。
- 住宅の玄関ドア・採光窓
外光を柔らかく取り込み、室内を明るく演出します。
外からの視線を遮りつつ、デザイン性を高める人気の施工ポイントです。 - 商業施設・ホテルの装飾パネル
光を活かした演出でブランドイメージを高めます。
LED照明と組み合わせて、昼夜問わずステンドグラスの輝きを楽しめる施工も増えています。 - 建築パーティション・間仕切り
空間を分けつつも、透け感と明るさを保つ。モダンな内装デザインにも調和します。 - 教会・文化施設
伝統的な用途として、今も宗教建築や記念館などに多く用いられています。
また、近年ではステンドグラスの意匠を再現した合わせガラス製品も登場しています。
これらは、本物のステンドグラスではなく、中間膜やフィルムに模様を印刷・挟み込んだデザインガラスで、安全性や防犯性を高めながら、ステンドグラスのような雰囲気を楽しめるのが特徴です。
ステンドグラスの製作方法
ステンドグラスは、職人の手仕事によって丁寧に作られます。
主な製作工程は次の通りです。
- デザイン(下絵)制作
建築用途や設置場所に合わせて図案を設計します。 - 色ガラスの選定とカット
下絵に沿って色ガラスを切り出します。 - ケイム組み・はんだ付け
鉛や真鍮製のケイムでガラスを枠組みに固定し、接合部をはんだで溶接。 - パテ詰め・研磨
隙間を防水パテで埋め、表面を磨いて仕上げます。

現代建築におけるステンドグラスの役割
現代のステンドグラスは、もはや「装飾」だけではありません。
光や陰影を設計に組み込むことで、建築全体の印象を変える要素として注目されています。
たとえば、商業施設やホテルではLEDバックライトと組み合わせた“発光型ステンドグラス”も登場。
また、建築家やアーティストがコラボレーションして、空間全体をガラスアートとして構築する事例も増えています。
伝統技法を継承しながらも、新素材・新技術との融合によって進化する建築素材――それが現代のステンドグラスです。

まとめ
ステンドグラスは、光を操る建築芸術として長い歴史を持ち、今なお多くの建築で採用されています。
「ステンドガラス」という呼び方もありますが、正式には「ステンドグラス」と表記するのが一般的です。
教会建築から住宅・商業施設まで、ステンドグラスは空間に豊かな彩りと高級感を与える存在です。
その魅力は、ガラスという無機質な素材に「光」という生命を吹き込むところにあります。


