正しいガラスの運び方は?|破損や事故を防ぐ道具と知識

ガラスは、その繊細さと重量ゆえ、運搬には特別な注意が必要です。

本記事では、安全にガラスを運搬するための基本原則や使われる道具、人力での運搬方法まで、プロの現場で実際に使われている知識をご紹介します。

ガラス運搬の基本原則:なぜ「立てて」運ぶのか

ガラス運搬において最も重要な原則は、ガラスを「立てた状態」で運ぶことです。

この原則は、ガラスの破損リスクを最小限に抑えるための物理的な知恵に基づいています。

面のたわみによる破損を防ぐ

ガラスを水平(面を上)にして運ぶと、ガラス自身の重さや持ち上げる際の力によって中央部が大きくたわみます。

特に大判のガラスや厚みの薄いガラスは、このたわみによってガラス内部に応力が集中し、簡単に割れてしまう危険性があります。

一方で、ガラスを垂直(立てた状態)にすることで、重力はガラスの厚み方向にかかるため、面にかかる応力が大幅に減少し、たわみをほとんど生じさせません。

これにより、ガラスは自身の重さや運搬時の振動・衝撃に対して強靭さを保つことができます。

車両運搬の必需品:自動車馬(ガラス運搬ラック)

大量のガラスや大きなガラスを運搬する際には、専用の車両運搬器具が不可欠です。

その代表的なものが、俗に「馬(うま)正式には「ガラス運搬ラック」や「自動車馬(じどうしゃうま)」と呼ばれる、トラックの荷台に設置する特殊なラックです。

このラックにガラスを立てかけ、ロープや専用の固定金具を用いてガラスを密着させ、動かないよう固定します。

運搬時のガラスの積み方の鉄則

安全な車両運搬のためには、ガラスの積み方にプロのノウハウが凝縮されています。

  1. 大きなガラスから先に積む
    • ラックにガラスを積む際は、大きいサイズや長いサイズのものからラック側に密着させて積み込みます
    • 小さいガラスを先に積むと、後から積む大きなガラスとの間に隙間が生じ、ロープで固定する際に大きなガラスがたわんで割れる原因となったり、小さなガラスの角が大きなガラスの面に擦れて傷をつける可能性があります。

  2. 車両の端に寄せて固定する
    • ガラスは基本的に、ロープの固定する力が強くかかるラックの端に寄せて積むのが基本です。車両の中心付近は、急ブレーキや急発進時にガラスが前後に滑り動くリスクが高まります。
    • 引っかけ金具の位置もガラスの端に合わせ、ロープの角度が約90度になるように調整することで、最大の固定力を発揮させます。

  3. ロープのテンション管理
    • ガラスを固定するロープは、ただ結ぶだけでなく、緩みのない強いテンション(引っ張り具合)をかけることが極めて重要です。テンションが弱いとガラスが振動で動き、破損や傷の原因となります。
    • プロの現場では、ロープの締め付けをさらに強化するため、緩衝材などを挟み込み、ロープをねじるなどして密着度とテンションを高める技術が使われます。

  4. 倒れ防止の「仮くくり」
    • 積み込み時、大きなガラスが倒れないように先にロープで仮固定(仮くくり)をしておくことで、その後の小さなガラスの積み込みや、荷降ろし時に大きなガラスが倒れるのを防ぎ、作業の安全性を確保します。

現場内運搬の強力な味方:ポニー(ガラス搬送台車)

現場内などでガラスを移動させる際に活躍するのが、「ガラス搬送台車」、通称「ポニー」です。

これはキャスター(車輪)付きの台車で、ガラスを立てかけた状態で安定して移動させるために設計されています。

ポニーを使うことで、人力で運ぶリスクと負担を軽減し、効率的かつ安全にガラスを移動させることが可能になります。ポニーは移動時もガラスを垂直に保つため、前述の「立てて運ぶ」原則を遵守できます。

出典:日本ベンリー株式会社

人力で運ぶ際の技術と注意点

作業者が自らの体でガラスを運ぶ場面でも、いくつかの重要な技術と注意点があります。

持ち方の基本:立てる・横長にする

  • 立てた状態で持つ:常にガラスを垂直に立てて運びます。水平にして持つのは厳禁です。
  • 横長で運ぶのが基本:重心が低くなり、バランスがとりやすいため、縦長よりも横長の向きで運ぶ方が安全性が高まります。ただし、搬入経路によっては縦長で運ぶ必要も生じます。

体に密着させる「たおれ」の技術

プロの運搬技術には、ガラスの傾きを体に預ける「たおれ」という方法があります。

  • 利き手をガラスの下側に置き、ガラスの重量を支えます。
  • 反対の手はガラスの上端または前方の横を持ち、ガラス全体を自分の方に少し傾け、背負うような形で体に密着させます。
  • ガラスの重心を体に預けることで、腕の力だけでなく体全体で支えることができ、安定して運びやすくなります。

危険な持ち方と手の位置

  • 下側を両手で持たない:木の板のように下側を両手で抱える持ち方は、ガラスが前に倒れた際に支えることができず、大変危険です。
  • 下側の手の位置:下側の手は、ガラスの板の中心よりも少し後ろ側(体側)に置くと、バランスがとりやすくなります。

運搬後の置き方の注意

  • 床への直置きは厳禁:コンクリート、大理石、タイルなどの硬い床にガラスを直接置くと、エッジ(端)が欠けたり、一瞬でガラスが割れたりする原因になります。
  • 養生材を使用する:運搬後は、必ず「養生」となる雑誌や、木材にカーペットなどを貼り付けた専用の道具(リンギなど)を敷き、その上にガラスを置きます。これにより、ガラスの欠けを防ぐとともに、ガラスを置いた際に手が挟まるリスクも軽減できます。

ガラス運搬で使用する道具:ガラス吸盤(サクションリフター)

人力での運搬や設置作業において、安全性を飛躍的に高めるのがガラス吸盤(サクションリフター)です。

サクションリフターの機能とメリット

これは強力なゴム製の吸盤をガラスの表面に密着させ、真空ポンプやレバー操作で内部を真空状態にすることで、ガラスに吸着させて持ち手として利用する道具です。

  • 安全性の向上:ガラスの側面に手をかけて持ち上げる必要がなくなり、滑り落ちるリスクを大幅に減らします。
  • 運搬効率の改善:吸盤を複数個使用することで、大判や重いガラスでも安定して持ち上げ、移動させることができます。
  • 正確な位置決め:窓枠への取り付け作業など、微妙な位置調整が必要な場面で、安定した取っ手として機能し、作業精度を高めます。

サクションリフターには、手動レバー式やポンプで空気を抜く真空式、電動式などさまざまなタイプがあり、ガラスの重さや表面状態に応じて適切なものを選ぶ必要があります。

特殊運搬のための梱包

オーダーメイド品、美術品のような特殊ガラス、または遠方への長距離輸送など、高い安全性が求められる運搬には、木枠梱包が採用されます。

木枠梱包の構造と役割

木枠梱包は、ガラスを完全に囲い込むように設計されたオーダーメイドの頑丈な木箱です。

  1. 外部からの衝撃の遮断:最も大きな役割は、外部からの物理的な衝撃や圧迫からガラスを完全に守ることです。輸送中のトラックの揺れ、積み下ろし時の衝撃、他の荷物との接触などからガラスを守ります。

  2. 振動と応力の分散:箱の内部には緩衝材が充填され、ガラスが木枠内で動かないように固定されます。これにより、輸送中の細かい振動や局所的な応力集中を防ぎます。

  3. 取り扱いの容易化:不規則な形状のガラス本体ではなく、均一で頑丈な箱として取り扱えるようになるため、フォークリフトなどによる荷役作業も安全かつ効率的に行うことができます。

木枠梱包はコストがかかりますが、ガラスの破損による経済的損失や納期遅延のリスクを考えると、特に高価なガラスや代替品の準備が難しいガラスの運搬においては、最も信頼性の高い方法と言えます。

まとめ

ガラス運搬の安全は、単なる力仕事ではなく、正しい知識と適切な道具の活用、そしてプロの技術によって成り立っています。

ガラスを「立てて」運ぶ基本原則から、車両運搬の積み込み技術、ポニーやサクションリフターといった専門道具の利用、そして人力運搬時の「たおれ」の技術と床への直置き厳禁の原則まで、これらを実践することで、ガラスの破損を防ぎ、人身事故のリスクを最小限に抑えることができます。

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