日常で当たり前のように使われているガラス。
窓やドア、ショーウィンドウなど、私たちの生活の中で数えきれないほど目にします。
しかし「ガラスってどのくらいの衝撃で割れるのだろう?」と改めて考えると、意外と答えられない方が多いのではないでしょうか。
映画やドラマでは、主人公が勢いよく走り抜けて窓ガラスを突き破るシーンがあります。
あの迫力ある映像を見て、「人間が本気でぶつかれば本当にガラスは割れるのか…?」と気になった経験はありませんか。
そこで本記事では、人間が体当たりした場合を想定し、厚みや種類ごとにガラスの割れやすさをシミュレーションしてみます!
注意
本記事で紹介する内容は、あくまで理論値に基づいたシミュレーションです。
実際のガラスの割れ方は、設置状況など様々な要因で変化します。
ここでの数値や想定条件でガラスが必ず割れる、または割れないことを保証するものではありません。
実際に試すことは非常に危険ですので、絶対に真似しないでください。
目次
シミュレーションの条件設定
今回の検証をよりリアルに、かつイメージしやすくするために、以下の条件を設定します。
- 検証者(架空): 身長175cm、体重70kgの成人男性
- 衝突速度:
- 時速10km(約2.8m/s):(例)ジョギングや速歩きに近いスピード
- 時速20km(約5.6m/s):(例)一般人が全力疾走したスピード
- 対象ガラス: 幅900mm × 高さ1800mm(面積1.62㎡)
- 厚さ5mmのフロートガラス(一般的な板ガラス)
- 厚さ10mmのフロートガラス(一般的な板ガラス)
- 厚さ5mmの強化ガラス(安全ガラス)

人体が生み出す衝撃力:物理学で解明する
まず、私たちがガラスにぶつかったときに、どのくらいの衝撃が生じるのかを物理学の視点から計算してみます。
衝撃は「運動エネルギー」と「衝撃力」で表すことができ、どちらも物体の重さと速度に比例して大きくなります。
運動エネルギー(E)
E=21×質量(m)×速度(v)2
- 時速10km(約2.8m/s)で衝突
- E=0.5×70kg×(2.8m/s)2≈274J
- 時速20km(約5.6m/s)で衝突
- E=0.5×70kg×(5.6m/s)2≈1,096J
衝撃力(F)
衝撃力は、物体が力を受ける時間の短さに反比例して大きくなります。
衝突時間を0.05秒と仮定すると、衝撃力は以下のようになります。
F=時間運動量の変化=時間m×v
- 時速10kmでの衝撃力 → 約3,900N(約400kgf)
- 時速20kmでの衝撃力 → 約7,800N(約800kgf)
つまり、人間でも全力でぶつかれば、「数百kgfに相当する衝撃」を瞬間的に発生させることができるのです。
これは、私たちが想像する以上に大きな力です。

各ガラスの「衝撃耐性」を徹底比較
それでは、この衝撃がそれぞれのガラスにどれだけ影響を与えるかを見ていきましょう。
ガラスの破壊は、主に「静的な破壊荷重」と「動的な衝撃」の2つの観点から評価されます。
今回の検証は後者に近いですが、静的な破壊荷重をひとつの目安として比較します。
5mmフロートガラス(最も身近なガラス)
フロートガラスは、建築物で最も一般的に使用される板ガラスです。
静的な荷重に対しては、1㎡あたり500N〜700N程度の力で割れるとされています。
今回の検証対象である1.62㎡のガラス板では、おおよそ800N〜1,100Nが破壊の目安となります。
- 時速10kmでの体当たり(約3,900N)は、破壊の目安をはるかに上回っています。
- このことから、5mmのガラスは時速10km程度のジョギング程度の速度でも、簡単に割れてしまう可能性が非常に高いと考えられます。
実際、家庭用の窓ガラスがサッカーボールや硬い物体で簡単に割れてしまうのも、この強度の低さによるものです。
- このことから、5mmのガラスは時速10km程度のジョギング程度の速度でも、簡単に割れてしまう可能性が非常に高いと考えられます。
10mmフロートガラス(厚板ガラス)
厚さが倍になることで、理論上の強度は約4倍に増します。
この場合の破壊に必要な荷重は3,200N〜4,400Nとなり、時速10kmでの衝撃(約3,900N)は、かろうじて耐えられるレベルになります。
- 時速20kmでの衝突(約7,800N)となると、数値的には破壊荷重を大きく上回ってしまい、破損のリスクが高まります。
- 厚みのある板ガラスは割れにくい分、衝突した側への反発も強く、仮に割れなくても大きな怪我を招く恐れがあります。

5mm強化ガラス(安全・安心なガラス)
強化ガラスは、フロートガラスを高温で加熱した後に急冷することで、表面に圧縮応力を与えたものです。
これにより、同じ厚みでも通常のガラスの3〜5倍の強度を持つとされています。
- 5mmの強化ガラスは、実質的に15mm〜25mmのフロートガラスに匹敵する強度を持つ計算になります。
- したがって、時速20kmの体当たり程度ではまず割れない可能性が高いでしょう。
仮に破損した場合でも、小さな粒状に砕け散るため、鋭利な破片による大きな怪我を防ぐことができます。
安全性の観点では、強化ガラスが圧倒的に優れています。
- したがって、時速20kmの体当たり程度ではまず割れない可能性が高いでしょう。

映画のワンシーンと現実のギャップ
アクション映画やドラマで、主人公がガラスを突き破るシーンは、観客を惹きつける大きな見どころです。
しかし、あの派手な演出の裏側には、映画制作のプロならではの工夫と、現実との大きなギャップが隠されています。
現実のガラスは「凶器」
まず、何よりも知っておくべきは、現実のガラスがどれほど危険かということです。
本物のフロートガラスは、衝撃を受けて割れると、非常に鋭利で大きな破片となって飛び散ります。
この破片はまるでナイフやカミソリのように鋭く、俳優が素手で突き破るような行為は、致命的な切り傷や重傷を負うリスクと隣り合わせです。
映画のガラス破壊シーンで俳優が怪我をしないのは、彼らが特殊な訓練を受けているからではありません。
そもそも本物のガラスを使っていないからです。
映画の世界を支える「シュガーグラス」の秘密
映画のガラス破壊シーンで使われるのは、主に「シュガーグラス(Sugar Glass)」と呼ばれる特殊な小道具です。
その名の通り、砂糖やコーンシロップ、ゼラチンなどを煮詰めて作られるもので、見た目は本物のガラスそっくりです。
- 安全性の確保: シュガーグラスは、割れると粉々に砕け散り、鋭い破片になりません。
俳優やスタントマンは、この安全な「偽ガラス」を安心して突き破ることができます。 - リアルな演出: 割れたときの「バリーン!」という音は、後から音響効果として追加されます。
破片の飛び散り方や粉砕する様子は、本物以上に派手に、かつ美しく見えるように計算されています。
さらに最近では、より強度が高く、よりリアルな質感を持つアクリル樹脂や特殊なプラスチックで作られた偽ガラスも使われています。
これらは、撮影環境や表現したいシーンに応じて使い分けられています。

まとめ
今回のシミュレーション結果から、ガラスは一見同じように見えても、その強度や安全性が全く異なることが明らかになりました。
ガラスを選ぶ際は、コストだけでなく、設置場所や用途に応じた「安全性」を考慮することが非常に重要です。
ガラス一つにも、私たちの安全を守るための科学と技術が詰まっています。