建築において欠かせない材料の一つであるガラス。
透明性やデザイン性といった魅力の裏側で、建築基準法では非常に厳格なルールが定められています。
この記事では、建築基準法におけるガラスの規制を、防火・避難、構造・安全、そして採光・換気という三つの大きな側面から解説します。
目次
「防火」の視点から見るガラスの規制
建築基準法におけるガラスの規制で最も重要となるのが防火に関する規定です。
火災の延焼を防ぎ、安全な避難経路を確保するために、設置場所や用途に応じて厳しい制限が課されます。
防火設備・準防火設備・特定防火設備
ガラスは、設置する部位の防火性能に応じて、「特定防火設備」、「防火設備」、「準防火設備」として使用されます。
これらの設備として使用されるガラスは、一般的なフロートガラスでは認められず、国土交通大臣の認定を受けた製品を使用する必要があります。
区分 | 性能要件 | 主な設置場所 |
---|---|---|
特定防火設備 | 遮炎性能:1時間以上 | 防火区画の開口部など、最も高い耐火性が求められる場所 |
防火設備・準防火設備 | 遮炎性能:20分以上 | 延焼のおそれのある部分の開口部など |
特定防火設備などに用いられる具体的な製品としては、網入りガラス、耐熱強化ガラス、防火ガラスなどがあり、これらが一体となったサッシ(窓)として認定を受けています。
延焼のおそれのある部分への設置義務
防火地域や準防火地域では、火災時に隣接する建物へ火が燃え移るのを防ぐため、建物の外壁や開口部の一部を「延焼のおそれのある部分」と定義し、ここに使用する開口部には防火設備の使用が義務付けられます。
建築基準法 第2条 第9号の2 ロ(抜粋)
ロ 隣地境界線、道路中心線又は同一敷地内の二以上の建築物(…)相互の外壁間の中心線から、一階にあつては三メートル以下、二階以上にあつては五メートル以下の距離にある建築物の部分
この範囲の窓にガラスを使用する場合、前述の網入りガラスや耐熱強化ガラスなどの防火設備として認定された製品が必要となります。

「構造・安全」の視点から見るガラスの規制
ガラスの規制は、火災時だけでなく、平常時の人身の安全や構造の健全性を確保するためにも設けられています。
構造耐力上の安全確保
大規模なガラス面は、風圧や地震力に対する構造計算によって、安全性を確認しなければなりません。
ガラスの種類、厚さ、支持方法などが構造耐力に大きく影響します。
飛散防止措置の義務化(人身の安全)
ガラスの破損・飛散による人への傷害を防ぐため、特定の部位に使用するガラスには飛散防止措置が義務付けられています。
建築基準法 第28条の2(抜粋)
学校、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店その他これらに類する政令で定めるものの用途に供する建築物で、その用途に供する部分の床面積の合計が二千平方メートルを超えるものについて、その用途に供する部分に設ける開口部でガラスを用いるもののうち、国土交通大臣が定めるものについては、これに用いるガラスを安全ガラスとすることその他これに代わる飛散防止の措置を講じなければならない。
公共性の高い施設だけでなく、住居においても、人が衝突する可能性のある場所(掃き出し窓、腰の高さ以下の窓、ドアなど)のガラスには、一般的に強化ガラス、合わせガラス、または飛散防止フィルムによる措置が求められます。

「採光・換気」の視点から見るガラスの規制
居室には、健康的な生活を営むために十分な自然光(採光)と新鮮な空気(換気)を確保するための窓が義務付けられており、ガラスの開口部面積が算定の基礎となります。
居室の採光義務と有効採光面積
居室(継続的に使用する部屋)には、採光のための窓その他の開口部が必要です。
この開口部の面積は、「有効採光面積」として計算され、その面積は床面積に対して一定の割合以上でなければなりません。
建築基準法 第28条 第1項(抜粋)
居室には、採光のための窓その他の開口部を設け、その採光に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、住宅にあつては七分の一以上、学校の教室にあつては五分の一以上、その他の居室にあつては十分の一以上としなければならない。
この有効採光面積は、以下の計算式で求められます。
有効採光面積=開口部の面積×採光補正係数
- 採光補正係数: 隣地境界線や庇(ひさし)など、光を遮るものの影響を考慮して算出されます。用途地域によっても算出方法が異なります。
- 天窓(トップライト)の優遇: 天窓は採光効率が高いとされ、算出された係数を3倍して計算できる特例があります。(上限は3)
採光に関わるガラスの注意点
- 透明性: 採光に有効な開口部として認められるためには、光を透過させるガラスである必要があります。一般的な透明ガラス、型板ガラス、網入りガラスなどは有効とされますが、極端に透過率の低いガラスは面積算入に注意が必要です。
- 「居室」と「非居室」: 必要な有効採光面積を確保できない部屋は、法律上「居室」として認められず、「納戸(N)」や「サービスルーム(S)」として扱われます。
居室の換気義務
居室には、換気のための窓その他の開口部を設ける必要があり、その換気に有効な部分の面積は、居室の床面積に対して20分の1以上としなければなりません。(建築基準法 第28条 第2項)
換気に有効な開口部とは、開閉できる窓やドアが対象です。ガラスがはめ殺し(FIX)窓の場合は、この換気面積には算入できません。
ただし、基準を満たす機械換気設備を設けた場合は、この限りではありません。

まとめ:ガラスの選定は多角的な検討が必要
建築基準法におけるガラスの扱いは、単なる意匠設計ではなく、人命を守るための防火・安全性、そして健康的な居住環境を確保するための重要な規定です。
規制の柱 | 主な着目点 | ガラスの具体的な役割 |
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防火・避難 | 延焼防止、防火区画、避難経路 | 網入りガラス、耐熱ガラスなどの「防火設備」の役割 |
構造・安全 | 風圧・地震への抵抗、飛散防止 | 構造計算、強化ガラス、合わせガラスなどの「安全ガラス」の役割 |
採光・換気 | 自然光の確保、空気の入れ替え | 窓の開口面積、ガラスの透過率、開閉機能の有無 |
設計者、施工者としては、これらの多岐にわたる規定を正確に理解し、設置場所や建物の用途に応じた適切なガラス製品を選定・施工することが、プロとしての法的責任であり、建物の品質を担保します。
この記事が、ガラスを扱う上での指針となれば幸いです。