ガラスは「透明な素材」というイメージが強い一方で、実際にはわずかな色味を持ち、用途や製法によって多彩な表情を見せます。
「色」は単なる見た目の意匠性だけでなく、ガラスの構成や光の透過特性と密接に関わる重要な要素です。
本記事では、ガラスがなぜ色を持つのかという基本から、代表的な種類ごとの色味、着色方法の違い、そして色がガラスの特性に与える影響までを詳しく解説します。
目次
ガラスは何色なのか?|断面に現れる色の正体
一般的にガラスは無色透明と思われがちですが、厳密には完全な無色ではありません。
多くのガラスはごく薄い色味を持っており、特に「断面」を見るとその違いが顕著に現れます。
ソーダ石灰ガラス(フロートガラス)の色
建築用板ガラスの主流であるソーダ石灰ガラスは、断面を見るとわずかに緑色を帯びています。
これは原料中に不純物として含まれる微量の酸化鉄(Fe2O3やFeO)によるものです。
酸化鉄は可視光の一部、特に「青〜赤側」の波長を吸収する性質があり、結果として緑色の成分が相対的に残るため、緑っぽく見えます。
表面から見るとほぼ無色に感じられても、厚みが増すほど光の通過距離(光路長)が長くなり、吸収量が増えて色味が強調されます。そのため、厚板ガラスや積層ガラスの断面では、はっきりとした緑色が確認できるのです。
ホウケイ酸ガラスの色
耐熱ガラスの代表であるホウケイ酸ガラスは、一般的なガラス(ソーダ石灰ガラス)に含まれる「緑色」の原因となる不純物(酸化鉄)が極めて少ないため、非常にクリアでヌケの良い外観を持ちます。
製品の種類や製造プロセスによって、断面の色味には以下のような特徴が現れます。
無色透明〜淡い青色を帯びるタイプ(テンパックスなど): 非常に純度が高く、断面(小口)から見ても色がほとんどつきません。厚みのある板でもその透明感は失われず、透過率は「アクリルに近い」と評価されるほどです。
淡い黄色〜琥珀色を帯びるタイプ: 特殊な組成や製造条件、あるいは微量な不純物の影響により、断面がわずかに黄色や茶色みを帯びて見えることがあります。これはソーダガラスの「緑」とは対照的な色彩傾向であり、ホウケイ酸ガラス特有の表情のひとつです。
石英ガラス(溶融石英)の色
石英ガラスは金属不純物の含有量が極端に少なく、非常に高い純度を誇ります。
そのため、光の吸収がほとんど起こらず、断面を見てもほぼ無色透明です。可視光だけでなく紫外線の透過率も非常に高いため、精密な光学用途などで重用されています。
ガラスはどうやって色が付くのか?|着色の基本原理
ガラスの色は、主に以下の要因が組み合わさって決まります。
- 原料中に含まれる金属イオン(不純物を含む)
- 製造時に添加される着色剤
- 溶融条件(炉内の酸素量:酸化雰囲気・還元雰囲気など)
金属イオンによる発色メカニズム
ガラス中に存在する金属イオンは、特定の波長の光を吸収する性質を持っています。
その結果、「吸収されなかった残りの光」が透過して私たちの目に届き、色として認識されます。
代表的な着色剤と、得られる色の関係は以下の通りです。
- コバルト (Co):青色。非常に強い発色力を持ち、少量で深みのある鮮やかな青を生みます。
- 銅 (Cu):青色〜青緑色。酸化状態やベースとなるガラス組成により、色彩のニュアンスが変化します。
- クロム (Cr):緑色。酸化鉄由来の緑よりも、純度の高い鮮やかな緑色を実現します。
- マンガン (Mn):紫色。添加量により、赤紫色に近いトーンを出すことも可能です。
- ニッケル (Ni):青紫色〜茶色。他の金属との組み合わせで、ブロンズやグレーなどの色調を整えるために用いられます。
- セレン (Se):ピンク〜赤色。温かみのある発色を促します。
- ネオジウム (Nd):赤紫色。特定の波長(黄色付近)を鋭くカットするため、光源の種類(日光か電球か)によって色味が変化して見える特性を持ちます。
着色成分
組成と環境による色彩の揺らぎ
同じ着色剤を使用しても、ベースとなるガラス自体の成分が変われば発色が変化します。
これは金属イオンの周囲にある電子の状態が、周囲の分子配置によって影響を受けるためです。
また、溶融時の酸素濃度といった条件も、最終的な色彩を左右する重要な因子となります。

表面を着色する特殊なアプローチ
ガラスの材料そのものを染め上げる「全体着色」以外にも、後加工によって表面に色彩を与える手法が存在します。
イオン交換法(ステイン)
ガラス中のナトリウムイオンを、銀や銅などのイオンと入れ替える技法です。
高温で処理することで、表層に金属コロイドを析出させます。
主に黄色〜琥珀色系の深い発色が得られ、古くから工芸や装飾の分野で用いられてきました。
プリント法(セラミックエナメル)
着色された低融点のガラス粉末(セラミックエナメル)を表面に塗布し、熱処理によって焼き付ける手法です。
この方法は、全体着色では不可能な「不透明な色彩」や「均一なパターン」をガラスに持たせることができます。
表面と一体化しているため耐久性が極めて高く、紫外線による褪色や剥離がほとんど起こらないのが最大の特徴です。
「色」がもたらす熱的特性とリスク
ガラスに色を付ける(=着色剤を混ぜる)ことは、光の透過・吸収率を変えることであり、それは同時にガラスの「熱の持ち方」を変えることでもあります。
「吸収」の熱線吸収ガラスと「反射」の熱線反射ガラス
ここで混同されやすいのが、熱を遮断する「仕組み」の違いです。
- 熱線吸収(色ガラス):ガラス組成中の金属成分が日射熱を内部で「吸収」します。
このため、日射を受けるとガラス自体の温度が著しく上昇します。 - 熱線反射(Low-Eガラス等):ガラス表面に金属酸化物膜などをコーティングし、日射を「反射」します。
吸収ではなく反射で熱を遮断するため、ガラス自体の温度上昇は「吸収」タイプに比べて抑えられます。
色ガラス特有の課題「熱割れ」
色ガラスは熱を吸収して温度が上がるため、「熱割れ」という現象に注意が必要です。
太陽光を浴びて高温になったガラス中央部が膨張しようとするのに対し、サッシに隠れた周辺部(エッジ)は低温のまま留まろうとします。
この温度差による歪みがガラスの強度限界を超えたとき、エッジ部分から亀裂が入って割れてしまうのです。
物理特性への影響
数%程度の着色剤の添加であれば、ガラス自体の機械的強度(硬さや耐衝撃性)や化学的耐久性に与える影響は最小限に留まります。
つまり、素材としてのポテンシャルを維持したまま、目的に合わせた色彩や透過特性を付与することが可能です。
ただし、注意すべきは「ガラス自体の強度が下がる」のではなく、「熱の吸収量が増えることで、内部にかかる負担(熱応力)が大きくなる」という点です。
素材が同じ強さであっても、色ガラス特有の熱吸収が「熱割れ」のリスクを引き上げるため、設計時にはこの点への配慮が必要になります。
熱を内部に溜め込むため、
ガラス自体の温度が上昇します。
熱を表面で跳ね返すため、
温度上昇は限定的です。
高透過ガラスという選択肢
「透明」を突き詰めると、高透過ガラスに行き着きます。
通常のガラスに含まれる酸化鉄(鉄分)を極限まで低減させることで、断面まで白く、透過光が変色しない質感を獲得しています。
これは「色を付けない」という技術を極めた結果生まれた、特殊な色彩のあり方と言えます。
まとめ|ガラスの色を知ることは、ガラスを理解すること
ガラスの色は、原料に含まれる鉄分という微量な成分から始まり、金属イオンの調合、さらには表面への特殊加工によって、無限のバリエーションを生み出しています。
断面に宿るかすかな緑を愛でるのか、高透過による究極の無色を求めるのか。あるいは、着色剤によって生み出された鮮やかな色彩を利用するのか。
その背景にある原理を理解することで、ガラスという素材の奥深さと、それが空間に運んでくる「光の価値」を、より正しく捉えることができるようになります。































