建築物の防火性能が向上する中でも、窓ガラスやガラス扉といった開口部に加え、火災時の避難経路や防火区画を構成するガラスは、火災時にリスクとなりやすい部位とされています。
壁や屋根が不燃材料で構成されていても、ガラスが破損すれば、そこから炎や熱が一気に外部へ広がったり、建物内部での延焼や避難の妨げにつながる可能性があるためです。
こうしたリスクを抑える目的で、建築基準法では一定条件下の開口部および、火災時の安全な避難を確保するための区画部位に対し「防火設備」の使用を義務付けており、防火ガラスはその中心的な要素のひとつとなっています。
目次
なぜ通常のガラスでは防火性能が不足するのか
板ガラスは一様に加熱された場合、比較的高温まで形状を保ちます。
しかし、実際の火災では炎の熱が不均一に加わるため、ガラス内部に急激な温度差が生じます。
この温度差による熱膨張の不均衡が歪みを生み、結果としてガラスは破損します。
一度ガラスが割れて脱落すると、開口部が露出し、炎や熱、さらには火の粉が通過する経路となります。
防火ガラスは、この「割れて開口が生じるまでの時間」を確保するために設計されたガラスと言えます。

防火設備として求められる基本条件
防火ガラス単体が高性能であっても、それだけで「防火設備」として認められるわけではありません。
建築基準法上の防火設備として運用するためには、以下の条件を満たしている必要があります。
・全体での適合
ガラス単体ではなく、これらを保持するサッシ・枠・副資材等を含めた全体として認定仕様を満たしていること。
・遮炎性能の証明
国土交通大臣認定または告示に基づく遮炎性能(20分間または30分間)を有していること。
防火設備とは「火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後 二十分間(…中略…)当該加熱面以外の面に 火炎を出さないもの」と定義されており、この性能(遮炎性能)を証明する認定または技術的基準への適合が必要です。
※屋根に設置する場合の基準(30分間)は、建築基準法施行令第136条の2の2に定められています。
「延焼のおそれのある部分」と「防火区画」について
防火設備の設置が必要となるケースは、大きく分けて2つあります。
ひとつは「延焼のおそれのある部分」です。
これは主に防火地域・準防火地域において、敷地境界線や道路中心線から一定距離以内(1階で3m、2階以上で5m以内)にある開口部を指します。隣接建物への延焼リスクが高いと判断され、外壁の窓などには防火設備として認定された建具・ガラスの設置が求められます。
もうひとつは、建物の規模や用途によって定められる「防火区画」です。
火災が発生した際、炎や煙が建物全体に広がるのを防ぎ、避難経路を確保するため、壁や床、そしてそこに設けられる建具・ガラスを防火設備として設置する必要があります。
一方、これらの指定がない地域や部位では義務ではありませんが、安全性確保の観点から自主的に防火ガラスを採用するケースもあります。

網入りガラスが果たしてきた役割
防火ガラスとして長年使われてきた代表例が網入りガラスです。
ガラス内部に金属製の網を封入することで、熱によってひび割れが生じても破片の脱落を抑え、開口を維持します。
この「割れても持ちこたえる」という特性が、遮炎性能の確保につながります。
ただし、網はあくまで補助的な役割であり、視界性や意匠性に制約がある点、エッジ部の納まりによっては金属腐食への配慮が必要な点も理解しておく必要があります。
網のない防火ガラスという選択肢
現在では、金網を使用しない透明タイプの防火設備用ガラスも普及しています。
これらは一般的な耐熱ガラスや厨房用ガラスとは異なり、防火設備としての遮炎性能について国土交通大臣認定を受けた製品です。
この種の防火ガラスは、割れて破片を保持する網入りガラスとは設計思想が異なり、ガラス自体が一定時間破損せずに炎の貫通を防ぐことで遮炎性能を確保します。
視認性が高く、意匠性を損なわないことから、店舗や大開口部を持つ建築物など、デザイン性が重視される場面で採用が進んでいます。
ガラスだけでは不十分|“セット”で考える
重要なのは、防火設備としての性能はガラス単体ではなく、サッシ・枠・副資材などを含めた全体で評価されるという点です。
エッジ加工の形状、ガラスの固定方法、副資材の耐熱性能などが細かく指定され、それらを満たした組み合わせのみが「防火設備」として認定されます。そのため、ガラスだけを変更しても認定性能は成立しません。
まとめ|防火ガラスは「条件」を理解して選ぶ
防火ガラスは、単に「燃えにくいガラス」ではなく、法規・性能・納まりを含めた防火設備の一部として機能する建材です。
設置場所や地域指定を正しく理解し、認定された仕様を守ることが、安全性と法令遵守の両立につながります。
防火性能が求められる開口部こそ、ガラスの種類だけでなく、どの条件で、どの認定を満たす必要があるのかを整理した上で検討することが重要です。






























