建物火災で命を奪う最大の原因のひとつ、それは「煙」です。
視界を奪い、呼吸を妨げ、パニックを引き起こす煙から人命を守るため、建築に取り入れられた一つの答えが「防煙垂れ壁」でした。
目次
防煙垂れ壁とは?
防煙垂れ壁とは、火災時に発生する煙の流出を防ぐために、天井から垂れ下がる形で設置される防火設備です。
ショッピングモールや駅舎、オフィスビルなど、多くの人が利用する建築物で見られ、避難経路を確保し、人命を守る役割を担っています。
煙は熱よりも早く広がるため、垂れ壁によって煙の滞留時間を稼ぐことで、避難行動に必要な時間を確保する狙いがあります。
なぜ防煙垂れ壁が必要になったのか?
建築物が高層化・大規模化していった1970年代以降、日本国内外で相次いで発生した大規模火災事故が、防煙対策の必要性を突きつけました。
特に問題視されたのが「煙の流動性」です。
空調や吹き抜け構造によって煙が一気に広がることで、わずかな時間で避難経路が塞がれてしまうケースが多発。
これを受けて建築基準法や消防法が見直され、火災時の煙拡散を防ぐための具体的な措置として、防煙垂れ壁が法的にも設計に組み込まれるようになったのです。

ガラスでつくる“見えない壁”―意匠と安全の両立へ
初期の防煙垂れ壁は金属板や石膏ボードなど、不燃であれば何でもよいという考えが主流でした。
しかし次第に、デザイン性や空間の開放感を損なわない素材として「ガラス製」の防煙垂れ壁が登場します。
透明性のあるガラスは視界を遮らず、圧迫感も少ないため、特に商業施設や駅舎での導入が進みました。
網入りガラスの採用が一般的で、破片の飛散を抑える合わせガラスも使われています。

現在の防煙垂れ壁:進化する選択肢
防煙垂れ壁は今や、用途や空間の特徴に応じてさまざまな素材・工法が選ばれています。
- ガラス製:視認性と安全性のバランスに優れ、主流の選択肢。
- 不燃シート製:軽量で割れることのないシート製防煙たれ壁。
- 金属製:古くからあるタイプで高耐久だが、デザイン性や開放感は制限されやすい。
さらに、IoT技術と組み合わせた自動降下機能や、中央管理システムとの連携も進み、利便性と安全性の向上が図られています。

落下事故が問い直す、見直すべき点
防煙垂れ壁は命を守る設備である一方、適切な維持管理が行われなければ、逆にリスクとなることもあります。
2024年、札幌市営地下鉄さっぽろ駅でガラス製防煙垂れ壁が落下する事故が発生しました。
幸い負傷者は出ませんでしたが、設置から30年以上、点検記録がなかったことが判明。
列車走行による風圧で金具が劣化していた可能性が指摘されています。
この事故は、見えない場所にある防災設備こそ、定期点検が不可欠であるという教訓を改めて私たちに突きつけました。

おわりに
防煙垂れ壁は、ただの設備ではありません。
火災という最悪の事態において、一秒でも長く避難時間を確保し、大切な命を守る“見えない盾”です。
そしてその存在は、私たちの安全に対する意識の変化、建築技術の進歩、そして設計思想の深化そのものを象徴しています。
「なぜそれが必要なのか」を理解することが、建物づくりに関わるすべての人にとって、最も重要な防災の第一歩となるのではないでしょうか。
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